不動産購入において、物件の瑕疵(かし)は購入後の大きなトラブルの原因となります。物件の瑕疵とは、見えない欠陥のことです。
たとえば、中古住宅を購入後に雨漏りや床の傾きが発覚し、修繕費用が高額になるケースがあります。そんなリスクから買主を保護するための仕組みが「瑕疵保証」です。
この記事では、瑕疵保証の基本から、選び方や活用法までを分かりやすく具体的に解説します。
この記事で分かること |
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目次
- 瑕疵保証の基本知識
- 瑕疵保証とは?
- 「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」の違い
- 瑕疵の種類
- 瑕疵保証保険が重要な理由
- 購入後のトラブルを防ぐ
- 保証保険付き物件は評価が高い
- 住宅診断(ホームインスペクション)の併用でさらなる安心感
- 瑕疵保証保険の費用負担は誰がする?
- 新築と中古で異なる瑕疵保証
- 新築住宅の瑕疵保証制度
- 中古住宅の瑕疵保証制度
- 瑕疵保証付き物件を選ぶ際の注意点
- 注意点1.保険内容を理解してから購入する
- 注意点2.加入できない物件が多い
- 注意点3.引き渡し後の加入はできない
- 国土交通省が指定する5つの住宅瑕疵担保責任保険法人
- 1.株式会社住宅あんしん保証
- 2.住宅保証機構株式会社
- 3.株式会社ハウスジーメン
- 4.株式会社日本住宅保証検査機構(JIO)
- 5.ハウスプラス住宅保証株式会社
- まとめ
瑕疵保証の基本知識
不動産取引において、瑕疵保証は物件購入後に発覚する予期せぬ欠陥やトラブルから、買主を守るための重要な保証制度です。
特に中古物件では、購入時点で見つけられなかった欠陥が後々発覚することも珍しくありません。本章では、この瑕疵保証の基本について解説します。
瑕疵保証とは?
瑕疵保証とは、不動産購入後に欠陥や不具合が見つかった場合、売主や保証会社がその損害を補填する仕組みのことです。購入時に、売主・買主・仲介会社が気付けなかった隠れた瑕疵が発覚した場合に適用されるもので、買主の経済的な負担を軽減するための重要な制度です。
「瑕疵保証保険」に加入することにより、保険会社が補償を行ってくれます。
新築住宅でも中古住宅でも適用される制度であり、それぞれに応じた保証内容が設定されています。主に以下のような問題が対象となります。
対象になりうる瑕疵 | 対象になりうる状況 |
雨漏り | 屋根や外壁の欠陥による浸水被害 |
基礎や柱など構造部分の欠陥 | 建物の耐久性に直接影響する問題 |
設備の重大な不具合 | 給排水設備や電気設備の故障 |
この保証があることで、中古物件でも買主は安心して購入することができます。
「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」の違い
近年、契約不適合責任という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
契約不適合責任は、2020年4月の民法改正により「瑕疵担保責任」に変わる形で導入されました。
【考え方の違い】
- 瑕疵担保責任
物件に「隠れた瑕疵(欠陥)」がある場合に限られ、買主がその欠陥を知らず、契約締結時に予測できなかった問題についてのみ、売主が責任を負います。 - 契約不適合責任
契約で取り決めた内容や仕様に「適合していない場合」に適用され、明らかな不具合も対象となります。契約内容が基準となるため、責任の範囲が広がりました。
言葉の混同を避けるため、上記についても覚えておきましょう。
瑕疵の種類
不動産取引における「瑕疵」は以下の4種類があります。対象になりる疵
物理的瑕疵 | 心理的建物や土地自体に構造的な問題や劣化があり、通常の使用に支障をきたす欠陥。 |
環境的瑕疵 | 周辺環境に騒音、悪臭、地盤沈下などの問題があり、生活や利用に悪影響を与える欠陥。 |
心理的瑕疵 | 過去の事件や事故、死亡事故などが原因で、購入者や利用者が心理的に不安を感じる物件の欠陥。 |
法的瑕疵 | 建築基準法や土地利用規制に違反している、または権利関係が複雑で利用や取引に制限がある欠陥。 |
4つの瑕疵の中で、瑕疵保証による保険が適用されるのは基本的に「物理的瑕疵」のみです。これは、瑕疵保証保険が物件の構造や設備の欠陥など、建物や土地の物理的な問題を補償することを目的としているためです。
一方で、環境的瑕疵や心理的瑕疵、法的瑕疵は、建物そのものの問題ではなく、周辺環境や権利関係、心理的な要因に起因します。これらは保険の対象範囲外であり、物理的瑕疵とは異なる性質を持つため、ほとんどのケースで保証の適用外となります。
瑕疵保証保険が重要な理由
不動産は大きな買い物だからこそ、購入後に発覚する欠陥やトラブルは大きな問題に発展しがちです。
瑕疵保証保険は、そうしたリスクを軽減し、買主が安心して取引を進めるためにとても重要です。
購入後のトラブルを防ぐ
あるケースでは、購入からわずか半年後に基礎部分の欠陥が見つかり、修繕費用に数百万円が必要となった例があります。また、別のケースでは、雨漏りが発覚し、大規模な屋根修繕が必要になった事例も報告されています。
瑕疵保証保険が付帯された物件は、こうした修繕費用を保証会社が負担してくれるため、取引におけるリスクを大幅に軽減することが可能です。
保証保険付き物件は評価が高い
保証保険付き物件は、売主・買主双方に安心感をもたらします。
売主にとっては、保証を付けることで責任が明確になり、買主からの信頼を得やすくなります。また、保証があれば購入後に欠陥が見つかっても費用負担することなく対応してもらえるため、買主からの評価も高いです。
住宅診断(ホームインスペクション)の併用でさらなる安心感
瑕疵保証保険に加入するには、前提条件として専門家による住宅の検査を行わなくてはなりません。
ただし、保険の適用範囲が限定的で加入前の検査だけでカバーしきれない部分もあるため、オプションとしたイメージで「住宅診断(ホームインスペクション)」を併用するのがおすすめです。たとえば、建物内部の壁や天井、水回り設備や建具、サッシなどにおいて取引後のトラブルを防ぐことができます。
瑕疵保証保険での調査とは | 売買におけるトラブルを防ぐための保険加入に欠かせないもの |
ホームインスペクションでの調査とは | 建物の現況を知り、建物を長持ちさせるためのもの |
また、診断結果は瑕疵保証保険の加入手続きにも役立つことがあり、買主からの信頼感を高めてスムーズな売却につながるケースも多いです。安心できる取引のために、住宅診断を同時に活用することも1つの手でしょう。
瑕疵保証保険の費用負担は誰がする?
一般的に、瑕疵保証保険の費用は売主が負担するケースが多いです。
ただし、取引の条件や契約内容によって異なるため、場合によっては買主が全額または一部負担することもあります。
たとえば、中古物件の売買では、売主が保証保険を付けることで、後から発生しうる賠償トラブルを避けられるため、売主負担で進められることが一般的です。一方で、買主が追加で保証を希望する場合は、その分の費用を負担するケースもあります。
ちなみに、費用目安は3~8万円程度です。(検査費用は別途必要になります。)
新築と中古で異なる瑕疵保証
瑕疵保証は、新築物件と中古物件で内容や適用範囲に違いがあり、加入する保険が異なります。
- 新築物件の場合:住宅瑕疵担保責任保険(強制加入)
- 中古物件の場合:既存住宅売買瑕疵保険(任意加入)
どちらの物件を選ぶ場合にも言えるのは、保証内容をしっかり理解しておくことで、購入後のトラブルを未然に防ぐことができるということです。それぞれ具体的な制度概要を解説します。
新築住宅の瑕疵保証制度
新築住宅の建築時に加入するのは、「住宅瑕疵担保責任保険(新築瑕疵保険)」です。
新築住宅では、購入者を守らるために「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が定められています。これに基づき、売主や建築業者は引き渡しから10年間の瑕疵担保責任を負うことが義務付けられています。
これは、すべての売主や建築業者に課され、「構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分」を対象に、無償で修繕を受けられるものです。
基礎や構造耐力上主要な部分 | 建物の安全性を支える基礎や耐力壁など |
雨水の侵入を防止する部分 | 屋根や外壁など |
また、新築住宅では、法律で定められた保証以外に、住宅メーカーが独自に設けている保証制度もあります。クロスや床材といった内装、給排水設備や電気設備、さらにはドアや窓などの建具の不具合を対象としていることが一般的です。
ただし、こうした独自の保証内容や保証期間は、住宅メーカーごとに異なります。また、これらは法律で義務付けられたものではないため、事前にしっかりと内容を確認しておくことが大切です。
中古住宅の瑕疵保証制度
中古住宅にも、購入者を守るための瑕疵保証制度があります。ただし、新築住宅とは異なり、法律で義務付けられているわけではなく、売主や不動産会社が任意で加入することが多いです。これを「既存住宅売買瑕疵保険」といいます。
この保険では、引き渡し前に専門家による現場検査を実施し、全ての要件を満たさなければ加入できません。また、現場検査で指摘された箇所の修復を行うことで加入できる場合もあります。
既存住宅売買瑕疵保険には2種類あり、売主が不動産会社かどうかによって異なるようです。
①売主が不動産会社の場合 | 宅建業者販売タイプの瑕疵保険 |
②売主が不動産会社以外の場合 | 個人間売買タイプの瑕疵保険 |
上記①の場合、売主自体が宅建業者であるため、保険加入者は「宅建業者」です。
上記②場合、売主もしくは買主からの依頼により、保険加入者は「宅建業者(仲介業者)」または「検査事業者」のどちらかになります。
宅建業法では、中古住宅で売主が不動産会社の場合、引き渡しの日から2年間の瑕疵担保責任を負うことが定められています。特約によって「2年間」を「1年間」に短縮するなど、買主に不利となる内容に変更することは無効とされます。そのため、「宅建業者販売タイプの瑕疵保険」における保証期間は、2年または5年間です。
不動産会社以外の売主が加入する「個人間売買タイプの瑕疵保険」の商品では、保証期間は1年または5年間となっています。
瑕疵保証付き物件を選ぶ際の注意点
買主として瑕疵保証保険付きの物件を購入する、もしくは売主として保証保険加入を考えている場合には、いくつかの注意点があります。
保証内容が契約ごとに異なるため、物件の状況と適用範囲や期間を理解することがトラブル回避のポイントとなります。
注意点1.保険内容を理解してから購入する
瑕疵保証におけるさまざまな保険商品がある中で、事業者が加入している保険会社の内容を確認しましょう。
確認するポイントは、以下の点です。
- 保証範囲
- 保証期間
- 適用条件
- 費用対効果
- 保険会社の信頼性
事業者にこれから加入を依頼したいと考えている売主は、保険料を負担することで「売却価格の引き上げにつながるかどうか」「万が一の高額賠償の備えになるか」という点に重きをおいて考えるとよいでしょう。
注意点2.加入できない物件が多い
瑕疵保証保険は、築年数や建物の基準によって加入が制限される場合があります。
加入できない代表例は、以下のとおりです。
- 床の傾きがある
- 雨漏りがある
- 外壁などにひび割れが見られる
- 耐震性能が乏しい
これらの問題は、建物の安全性に直結するため、保証の対象外となるケースがほとんどです。
特に、1981年以前の旧耐震基準で建てられた住宅は、現在の耐震性能を満たしていないため、加入は難しいと考えてよいでしょう。また、たとえば新耐震基準で建てられた1982年築の物件であっても、2024年現在では築42年が経過しており、加入が難しいケースも多くあります。
全ての中古物件で必ず瑕疵保証保険に加入できるわけではない点に注意し、購入を検討する際は物件の状態や築年数を十分に確認することが重要です。
注意点3.引き渡し後の加入はできない
新築住宅の場合、建築を手掛ける住宅メーカーが「住宅瑕疵担保責任保険」に加入することが義務付けられており、買主自身が特に気を配る必要はありません。
しかし、中古住宅では注意が必要です。仲介会社の担当者が瑕疵保険について詳しくなかったり、経験が浅かったりする場合、保険の手続きが進められないまま取引が進んでしまうこともあります。
たとえ買主が費用を負担して瑕疵保険を付けたいと希望しても、引き渡し後に加入することはできません。契約前に保険の有無をしっかり確認し、必要に応じて売主や仲介会社と事前に調整しておくことが重要です。
※保険会社の内容や、諸事情により引き渡し前に保険会社が検査に立ち入れない場合など、例外的に引き渡し後に加入できる場合もあります。
国土交通省が指定する5つの住宅瑕疵担保責任保険法人
1.株式会社住宅あんしん保証
(引用:中古住宅売買向けかし保険|商品一覧|住宅あんしん保証)
- 既存住宅売買向けかし保険の引受実績:81,000戸以上(2023年3月末時点)
住宅あんしん保証の特徴は、第三者である建築士による現場検査を実施し、買主に安心感を与える点です。また、オプションで建物状況調査を同時に行うこともできるため、取引全体をスムーズに進めたい方に適しています。
2.住宅保証機構株式会社
(引用:特徴|まもりすまい既存住宅保険|住宅保証機構株式会社 住宅瑕疵(かし)保険))
住宅保証の老舗企業で、全国に広がるネットワークと豊富な実績が強みです。「まもりすまい既存住宅保険」は、検査と保証がセットになっています。
長年の経験を活かした信頼性の高いサービスで、幅広いニーズに応えています。特に、確かな品質を求める場合に選ばれることが多い会社です。
3.株式会社ハウスジーメン
(引用:株式会社ハウスジーメン「既存住宅かし保険(宅建業者販売)のご案内」)
- 届出・登録事業者数:約15,570社(2024年3月末日現在)
- 取次店数:約370店(2024年3月末日現在)
- 現場検査員:2,953名(2024年9月末日現在)
ハウスジーメンは、保険のほか建物検査や審査、クラウドサービスなど、住宅関連業務をトータルでサポートするサービスが強みです。
また、比較的リーズナブルな料金設定も魅力の一つで、建物検査と保証が一体となった効率的なサービスを展開しています。特に、住宅インスペクション時に活用できる保証プランが豊富に揃っており、安心して取引を進めたい売主・買主の双方に最適です。
4.株式会社日本住宅保証検査機構(JIO)
JIO(日本住宅保証検査機構)は、新築・既存住宅の両方を対象とした多様な保証商品を提供しており、業界内でも高い信頼を誇る機関です。
特に、専門的で厳格な検査基準に基づく建物検査が強みで、信頼性の高い保証を提供しています。
参考:既存住宅かし保険 | 住宅かし保険 | JIO | 住宅かし(瑕疵)保険の日本住宅保証検査機構
5.ハウスプラス住宅保証株式会社
(引用:既存売買瑕疵保険パンフレット)
ハウスプラス住宅保証は、迅速な手続きとわかりやすい契約内容が特徴です。建物の状態や取引条件に応じて柔軟なプランを選べるため、手早く保証を整えたい方に最適です。
シンプルかつ効率的な保証サービスを提供している点で高い評価を受けています。
まとめ
この記事では、瑕疵保証の基本知識から選び方、活用法までを解説しました。瑕疵保証保険は、不動産取引におけるリスクを軽減し、買主には安心感を、売主には信頼を与える重要な制度です。
特に中古住宅の場合は、物件の状態や取引条件に応じて最適な保証を選ぶことが大切です。保証範囲や費用、適用条件を確認し、必要に応じて住宅診断(ホームインスペクション)を併用することで、保険だけではカバーできないリスクにも備えることができます。
この記事で紹介したポイントを参考に、物件に合った保証を選び、安心して不動産取引を進めていけるようにしましょう。
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