不動産投資を勉強している方、これから始めようとしている方は「頭金0で始められます」「自己資金不要」という勧誘を目にした経験があるのではないでしょうか。
この謳い文句は、投資を始めるにあたって十分な貯蓄がない人には、とても魅力的に映るでしょう。
フルローンを利用した不動産投資は、少ない自己資金で始められるメリットがある一方で、返済負担の増加により、運用を左右するさまざまなリスクがあります。
本記事では、フルローン投資のメリット・リスクを明らかにし、実際の収益シミュレーションを紹介します。自己資金を入れた場合と、フルローンの場合において、どのようなキャッシュフローの差があるのかを解説します。
本記事を読んでわかること |
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目次
- フルローンとは
- フルローン投資の意味
- フルローンでも諸経費は借入できない
- フルローンとオーバーローンの違い
- フルローン投資の収益シミュレーション
- 例①フルローンの場合
- 例②頭金300万円を入れた場合
- フルローンで不動産投資をするメリット
- 1.自己資金の準備が少額で済む
- 2.レバレッジ効果を最大限発揮できる
- 3.団体信用生命保険を最大限活かせる
- フルローンで不動産投資をするリスク
- 1.金融機関のローン審査が厳しく選択肢が狭くなる
- 2.購入時に自己資金持ちの人よりも不利になる
- 3.毎月の返済負担が増えてキャッシュフローが悪化する
- 4.金利変動のリスクが大きく総返済額が高くなる
- 5.残債が減らないため物件の売却が難しくなる
- 不動産投資でフルローンを組んでも良いのはこんな人
- 1.土地の所有者
- 2.十分な金融資産や預貯金がある
- 3.給与などで返済が賄えるほどの高所有者
- 4.他に所有する投資物件で十分な利益が出ている
- 不動産投資でフルローンをおすすめしないのはこんな人
- 1.不動産投資の初心者である人
- 2.毎月安定した手残り(収益)がほしい人
- フルローン融資を受けるのに有利な物件とは
- 1.新築物件
- 2.人気の駅や総合駅に近い物件
- 3.将来的なエリア発展が見込まれる物件
- フルローン投資は慎重に検討すべき(まとめ)
フルローンとは
フルローンを組む、つまり自己資金を入れずに投資物件を購入する、ということは具体的にどのような状態を指すでしょうか。
まずは、本章で「フルローン」の定義を明確にしておきましょう。
フルローン投資の意味
フルローンとは、物件購入価格の全額を銀行などの金融機関から借り入れする方法です。
通常、不動産投資で融資を得るには、購入時に頭金として物件価格の20%前後の自己資金が必要ですが、フルローンではこの頭金を用意せずに投資を始められます。
これにより、自己資金の準備ができない人でも不動産投資が可能な一方で、借入額が大きくなるため、さまざまなリスクが生じます。
フルローンでも諸経費は借入できない
不動産投資においてフルローンを組む場合でも、基本的に購入時の初期費用は融資対象になりません。
初期費用(経費) |
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具体的には上記の経費などです。
フルローンを組んでも、結果的にある程度まとまった手元資金は必要になります。
また、物件価格の全額が対象なので、購入と同時にリフォームをする際の費用(リフォームローン)についても対象外です。
フルローンとオーバーローンの違い
フルローンとよく勘違いされる言葉に「オーバーローン」があります。
似たシーンで使われるので混同しやすいですが、両者は明確に意味が異なります。
オーバーローン | 物件の購入価格以上の金額を借り入れること |
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フルローン | 物件価格全額の金額を借り入れること |
上記の違いがあるため、オーバーローンでは、前項で解説した初期費用やリフォーム費用などを組み込むことができます。
フルローンよりも大きな金額を借り入れるため、両者を比較するとオーバーローンの方がより審査が厳しい傾向にあり、不動産投資では高いリスクを抱えます。
フルローン投資の収益シミュレーション
フルローン投資の魅力は、何と言っても購入時の自己資金の少なさです。
しかし、それだけでスタートしてしまうと、運用中のキャッシュフローの悪化が避けられません。以下で特定の条件を用いて、試算してみましょう。
※本章では、みずほ銀行「住宅ローンシミュレーション」を用いて返済額を算出しております。尚、本シミュレーションでは金利の変動については考慮しておりません。
例①フルローンの場合
仮定条件 |
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今回は、区分マンション投資に見られることの多い、上記の例を試算条件とします。
この条件でフルローン融資を受けると、毎月の返済額は71,131円です。
東京23区内でも「築古ワンルームマンション」の一室であれば、投資物件専用のポータルサイトで1,500万円程度で売り出している物件はいくつかあります。
しかし、ほとんどの物件で築年数35~40年程度は経過しており、賃料相場は6.0~7.8万円ほどです。
家賃7.8万円を取れていても、月々のローン返済費用に加え、管理費・修繕積立金を考慮すると、慢性的にマイナスになってしまいます。
例②頭金300万円を入れた場合
次に同条件で頭金300万円を入れ、借入額1,200万円で融資を受ける試算をしてみましょう。
この場合、月々の返済額は56,905円となり、毎月の返済負担が1.5万円近く減少しました。
先述の東京23区内の例に当てはめて考えてみると、家賃7.8万円の優良物件を購入できれば、毎月の収益は黒字になります。
また、家賃下落が発生してキャッシュフローが悪化したとしても、少しの余力があります。
フルローンで不動産投資をするメリット
不動産投資において毎月のキャッシュフローを考慮するなら、自己資金を入れる方が賢明です。それでも、フルローンを選択する人がいるのは以下3つのメリットがあるからです。
- 自己資金の準備が少額で済む
- レバレッジ効果を最大限に発揮できる
- 団体信用生命保険を最大限活かせる
それぞれ具体的に解説しましょう。
1.自己資金の準備が少額で済む
多くの人がフルローンを利用する理由であり、大きなメリットは「頭金を用意する必要がないこと」です。
これにより、投資に回せる自己資金が少ない方でもすぐに不動産投資を始めることができます。自己資金を用意していた場合は、予備資金として手元に残せます。
2.レバレッジ効果を最大限発揮できる
少ない自己資金で大きな利益を得ることを「レバレッジ効果」と言います。
このレバレッジ効果は不動産投資の大きな特徴で、これを利用して資産を効率的に増やすことが可能です。
分かりやすい例えをすると、100万円の自己資金で1億円の物件を購入する場合、物件価値が10%上昇すれば、自己資金に対するリターンは10倍になります。
フルローン投資では、このようなレバレッジをかけた運用が魅力です。
3.団体信用生命保険を最大限活かせる
フルローンでは、通常、団体信用生命保険に加入することが求められます。この保険により、万が一の際にローン残高が保険金で完済され、家族に経済的負担を残さずに済みます。
ローンの残債が多いほどこの保険に加入する効果が大きくなり、安心材料となりうるのです。
フルローンで不動産投資をするリスク
前章のようなメリットを加味しても、フルローン投資はやはりリスクが高く、デメリットが多いです。
- 金融機関のローン審査が厳しく選択肢が狭くなる
- 購入時に自己資金持ちの人よりも不利になる
- 毎月の返済負担が増えてキャッシュフローが悪化する
- 金利変動のリスクが大きく総返済額が高くなる
- 残債が減らないため物件の売却が難しくなる
本章では上記5つのリスクについて解説しますが、不動産投資初心者の方や手元資金が十分にない方にはフルローンでの借入はおすすめできません。
1.金融機関のローン審査が厳しく選択肢が狭くなる
フルローンを希望する場合、金融機関は借入者の「信用力」や「物件の担保価値」を通常よりも厳しく審査します。その結果、フルローンを提供してくれる金融機関が限られる可能性があるでしょう。
また、金利が高く設定されるなど、融資承認を得るにあたって借入条件が不利になる場合が多いです。
2.購入時に自己資金持ちの人よりも不利になる
自己資金が少ないためフルローンに頼ると、1番手で物件の購入申込を行っても、購入できない場合があります。
フルローンは融資審査が厳しく、結果が出るまでに時間がかかります。承認を得られないことを恐れて、不動産会社が他の自己資金を持つ2番手の購入者に物件を売ってしまうのです。
3.毎月の返済負担が増えてキャッシュフローが悪化する
フルローン投資は、前章のシミュレーションで開設したように、月々の返済額が大きくなります。
長期的な空室、家賃下落による収入減、予期せぬ出費が発生した場合にキャッシュフローが悪化する(マイナスになる)リスクが高まります。
不動産投資で発生するキャッシュフローのマイナスは、精神的な憂鬱さにも繋がりますので、日常生活に支障をきたす人も多いようです。
4.金利変動のリスクが大きく総返済額が高くなる
長期にわたるローン返済は、借入期間中に金利が変動するリスクがあります。
多くの投資家が変動金利型のローンを選択しますが、将来的に金利が上昇すると、毎月の返済額が増加し、総返済額が大幅に膨らむ可能性があります。
利上げ前に毎月わずかな収益しかない場合、特に利上げ後の永続的なマイナスに苦しむはずです。
予想外の利上げで出費がかさみ、投資全体の収益性が低下することがあるでしょう。
5.残債が減らないため物件の売却が難しくなる
フルローンでは、初期の返済期間中は元金があまり減らず、利息の支払いが中心となるため、ローン残高が大きく残るケースが多いです。
そのため、物件の売却時に残債が多く残り、売却価格がローン残高を下回るケースが発生するリスクがあります。
これにより、ローンを完済できず、追加資金を自己負担しなければならない状況に陥る可能性があります。
不動産投資でフルローンを組んでも良いのはこんな人
不動産投資で安定収益を得るにはフルローンはおすすめしませんが、以下のいずれかに当てはまる方であれば経営破綻するほどのリスクを回避できる可能性が高まります。
- 土地の所有者
- 十分な金融資産や貯蓄がある
- 給与で返済が賄えるほどの高所得者
- 他に所有する投資物件で十分な利益が出ている
リスク回避の考えについて、解説します。
1.土地の所有者
すでに土地を所有している場合、その土地を担保にしてフルローンを組むことが可能です。
この場合、土地の価値が担保となるため、金融機関からの融資が受けやすく、さらに利率も優遇されることが多いです。土地を所有していることで、資産価値が高く、リスクが抑えられるため、フルローンを利用しやすくなります。
また、一棟ものを購入する場合、土地・建物の両方をフルローンで組むと、借入金額が大きいです。
しかし、土地活用のために所有者が上物を建築し、建物分の融資だけを受けるケースでは、先述のデメリットは発生しづらくなります。
2.十分な金融資産や預貯金がある
預貯金や金融資産を豊富に持っている場合、キャッシュフロー悪化時にローン返済に充当できるため、フルローンを利用してもリスクが低くなります。
例えば、運用中の株式やその他の資産が十分にある場合、物件に急な雨漏りなどが発生しても、修繕のための運転資金を迅速に調達することが可能です。
3.給与などで返済が賄えるほどの高所有者
毎月の返済を所得で賄えるほど、本業で安定した高い収入を得ている場合、フルローンを利用してもリスクが低くなります。
また、退職金などが発生する場合、返済の見通しも立てやすくなります。
さらに高所得者であれば、ローン審査でも有利な条件を引き出しやすく、低金利での融資承認を期待できるでしょう。
4.他に所有する投資物件で十分な利益が出ている
既に所有する投資物件から安定した収益があり、かつその資金に手を付けていない場合、新たにフルローンを利用しても、その収益で返済をサポートできるのでリスクが軽減されます。
複数の物件で収益を分散することで、1つの物件の収益が不安定でもリスクヘッジが可能です。
不動産投資でフルローンをおすすめしないのはこんな人
不動産投資では、フルローンを組むことで高いリスクを抱える人が多いです。
中でも、以下の2つの条件に当てはまる人は注意が必要で、これらの人がフルローンで融資を組むと、自己破産に陥る可能性があります。
1.不動産投資の初心者である人
不動産投資の経験が浅い初心者は、フルローンは避けるべき選択肢です。
初心者の場合、物件の選定やリスク・デメリットの管理ができていない人が多く、フルローンによる高額な返済負担が大きなリスクとなります。
2.毎月安定した手残り(収益)がほしい人
安定した毎月の収益を求める投資家にとって、フルローンは不向きです。フルローンでは、毎月のローン返済額が高くなるため、手残りの収益が少なくなる可能性が高いです。
安定した収益を重視するなら、頭金をしっかりと入れて、ローン返済額を抑える方が安全でしょう。
フルローン融資を受けるのに有利な物件とは
フルローン融資は、決して全ての収益物件で受けられるわけではありません。
物件評価を高く得ることができ、収益性が高いと判断されることが前提であり、フルローンの承認を得られる方が稀なケースといえます。
本章では、フルローン融資を受けるのに有利な物件条件を3つ解説します。
1.新築物件
新築物件は、金融機関からの担保価値が高い評価を得やすく、フルローン融資を受けやすいです。
新築物件は修繕費がかからず、購入後の初期投資が少なくて済むため、キャッシュフローが安定しやすいのも高評価を得られる要因です。
また、俗に言う「新築プレミアム」で初期の家賃設定を相場よりも上げやすいので、高い収益性が見込めます。
2.人気の駅や総合駅に近い物件
駅近の物件は空室リスクが低く、安定した収益が期待できるため、金融機関からの評価が高くなります。特に人気のある駅や、都心の総合駅に近い物件もしくは直通アクセスが可能な物件は、高い評価が期待できます。
このような物件は、融資審査でも有利に働きやすく、フルローンを利用してもリスクが少ないです。
都心部や商業施設が近くにあるエリアは、長期的に価値が保たれる可能性が高いため、投資物件としても魅力的です。
3.将来的なエリア発展が見込まれる物件
将来の発展が見込まれる立地に位置する物件は、フルローン融資を受けやすいです。
- 人口が増加傾向にある地域
- 新たなインフラ整備の計画がある
- 商業施設の建設が予定されている
- 駅の新設など再開発が検討・公表されている
これらのエリアでは、物件の価値が将来的に上昇する可能性が高く、金融機関からの評価も上がります。また、売却益も見込めることも、高い評価を得やすい要因の1つです。
フルローン投資は慎重に検討すべき(まとめ)
本記事では、フルローンでの不動産投資に焦点をあて、メリットやリスク、試算シミュレーションを行いました。
フルローン投資には、自己資金が少なくても大きな投資が可能になるメリットがありますが、その反面で伴うリスクも大きいです。
特に、返済負担の増加や金利変動によるキャッシュフローの悪化、物件の売却時に残債が多く残ってしまうリスクなど、慎重に検討すべきポイントがたくさんあります。
リスク回避した「堅実」で「安定」した不動産投資をしたい方にとって、フルローン投資は不向きでおすすめできません。
フルローンを利用する際は、十分なシミュレーションとリスク管理を行い、自身の経済状況に合った判断をすることが求められます。
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