賃貸契約書で押さえるべき重要ポイントと注意点

賃貸物件の契約書は、多くの場合は管理会社・不動産会社が作成してくれます。

しかし、だからといって物件のオーナーが「契約書に記載されている内容を理解・把握していない」のはいけません。

あとあとのトラブル発生を防ぐために、オーナーも契約書の内容や締結時の注意点を把握しておく必要があります。

また、管理会社を挟まずに、オーナーが物件を自主管理するケースもあるでしょう。

その場合は、オーナー自身が賃貸契約書を作成しなくてはなりません。

そこで、この記事では賃貸物件のオーナー向けに賃貸契約書を作成する際のポイント・注意点を解説します。

賃貸契約書に関するトラブル事例も併せて解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

本記事を読んでわかること
  • 賃貸契約書の役割や重要事項説明書との違い
  • 賃貸契約書に記載すべき具体的な項目・内容
  • 作成時の注意点とポイントとなる視点、考え方
  • よくあるトラブル事例と解決策紹介

※国土交通省ガイドラインや賃貸住宅標準契約書のリンク付けをしております。

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賃貸契約書とは

賃貸契約書とは、物件の所有者であるオーナーと借主との間で結ぶ契約書のことです。

賃貸物件を借りるうえでのルールや条件などの重要事項が記載されており、オーナーと借主双方のサイン・押印が必要になります。

賃貸契約書についての理解を深めてもらうために、以下の2つの前提知識をお伝えします。

賃貸契約書はなぜ必要なのか

賃貸契約書は、貸主と借主の間でのトラブルを未然に防ぐために作成されます。

実は、賃貸契約の際に契約書を交わすことは法律で決められているわけではありません。

極端にいえば、賃貸契約を口約束だけで結ぶことも可能ですが、それでは「言った」「言ってない」などの認識のズレが生まれてしまう可能性があります。

そのようなトラブルを未然に防ぐために、賃貸契約書が必要なのです。

また、オーナーにとっては、契約書に記載すべき内容にヌケがあると、やはりトラブルの元となります。

賃貸契約書に関する正しい知識を身に着けて、安心・安全な契約を結べるよう準備しましょう。

重要事項説明書との違い

賃貸契約書は、前述したように賃貸物件を借りるうえでのルールや条件などが記載されています。

契約書の記載内容についての合意を結ぶのが、賃貸契約書の役割です

対して、重要事項説明書は貸主ではなく不動産会社から交付されます。

記載されている内容は、賃貸契約書と重複する部分も多いですが、その目的は「契約前の条件確認」をしてもらうためです。

なお、賃貸契約書による締結は義務ではありませんが、不動産会社が借主に対して重要事項説明書を発行することは義務付けられています。

そのため、不動産会社を介さずに貸主・借主の間で直接契約を結ぶ際は、重要事項説明書は発行されません。


賃貸契約書に記載すべき9つの項目

この章では、賃貸契約書に記載すべき9つの項目の概要をお伝えします。

借主とのトラブルを未然に防ぐために、オーナーは必ず把握しておいてください。

1.物件の詳細情報・設備

賃貸契約書には、借主に貸し出す物件の詳細情報・設備の内容を記載する必要があります。

具体的には、下記の項目を漏れがないよう記載してください。

建物名称

登記されている正式名称を記載する

所在地

「〇丁目〇番〇号」といった形で正式に記載する

構造

木造・鉄筋コンクリート造など

築年数

工事完了年月を記載する

間取り

〇K・〇LDKなど

面積

〇㎡

設備

ライフラインやトイレ・浴室などの基本的なものから、インターネット対応なども含めて全て記載する

物件の詳細情報や設備は、借主にとっては物件を借りる際の決め手となる大きな要素です。 

ヌケがないよう、正確な情報を記載してください。

 

なお、設備として記載しているものは、故障した際の修理費用などはオーナーが負担する必要があります。

2.使用目的・条件

使用目的は、住居・事務所・店舗などが一般的です。

また、条件として「使用目的以外の用途での仕様を禁止する」といった文言も記載しておいた方がいいでしょう。

住居として賃貸したものの、入居者が勝手に個人事務所としてしまうケースがあります。

3.契約期間・更新の条件

契約の周期と始期・終期の年月日を記載してください。

賃貸物件の契約期間は、2年周期とするのが一般的です。

 たとえば、2024年10月1日を契約締結日とする場合、 始期2024年10月1日~終期2025年9月30日となります。

また、契約更新の条件に関しても契約書に記載する必要があります。

更新料を徴収する場合は、その趣旨や金額、徴収日や支払い方法などの取り決めを記載しましょう。

4.家賃の支払い方法・期日

賃貸契約書には、家賃の支払い方法・期日を必ず記載してください。

また、前家賃なのか後家賃なのかについても、正確に記載する必要があります。

管理会社へ委託する場合、支払方法は口座振り込みが一般的です。

しかし、自主管理で保証会社も入れない場合は、銀行振込とするケースが多いので、振込先の銀行名・支店名・口座番号・名義を記載しましょう。

5.家賃・管理費(共益費)その他の月額費用

家賃の支払い方法・期日に付随して、その金額も記載します。

管理費(共益費)や、駐車場代などの月額費用が別途発生する場合は、その総額・内訳を記載してください。

その他の月額費用には、以下のものが挙げられます。

  • 火災保険料
  • 保証委託料
  • 口座振替手数料
  • 24時間サポートなど

これらも忘れずに記載しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

6.敷金・礼金・その他の初期費用

契約時に支払う初期費用に関しても、契約書に記載する必要があります。

敷金・礼金、家賃を前家賃として振り込んでもらう場合はそれも含めて、総額・内訳・支払い先・支払い期日を記載してください。

契約時に預かった敷金について、一部を返還しない「償却」とする場合は、必ずその旨を記載するようにします。

支払い期日は、必ず契約日よりも前に設定しましょう。

1週間前など余裕を持っておくことで、オーナー側はスムーズな入居準備をできます。

7.貸主・管理会社の連絡先や情報

貸主であるオーナー、そして管理会社の連絡先や住所などの基本情報を記載しましょう。

なにか緊急事態が発生した際、住民間でのトラブルが発生した際など、借主から電話連絡などがいく可能性が考えられます。

 

8.借主・保証人の連絡先や情報

契約を結ぶ相手となる借主、そして保証人の連絡先・情報を記載する欄も設けておく必要があります。

 

借主に同居人がいる場合は、同居人の情報を記載する欄も必要です。 

契約書に記載する必要はありませんが、同居人が未成年の場合は、親権者の同意書と連絡先をもらっておくとより安心です。

また、保証人には保証の極度額についての取り決めも記載しなくてはなりません。 

2020年の民法改正によって、賃貸契約の保証人の保証範囲の限度額を定めることが義務付けられています。

9.条文

賃貸契約書における条文とは、契約の法が絡む部分やルールなどを箇条書きでまとめたものです。

各項目のポイントを解説します。

①家賃滞納時の措置

万が一、家賃滞納があった際の措置をどのように行うかを記載します。

契約書で定める家賃の支払日から遅延があった場合、「1日当たり〇の遅延損害金を請求する」などの記載も有効です。

②解約・明け渡し条件

物件を解約し、明け渡す際の条件を記載します。

入居者からの解約の通告は、30日前におこなうように定めるのが一般的です。

オーナーからの解約については、対象物件の抵当権が実行される場合や、やむを得ない理由で明け渡しを求める場合の措置について、法律に則ったうえで記載します。

③違約金

契約内容への違反があった際の、違約金の有無・適用条件などを記載します。

また、違約金の支払い期日についても「発覚した日から●●日以内に支払う」旨を定めておきましょう。

反社会的勢力の排除

借主が、暴力団などの反社会的勢力に加担していないことを約束してもらうための条文です。

加担していないと虚偽の申告をしていることが発覚した場合、強制退去とする旨を記載します。

④禁止事項

楽器演奏・ペットの飼育・石油ストーブの使用など、物件内での禁止事項を記載します。 

禁止事項を行っていたことが発覚した場合は、退去を求める可能性がある点についても言及してください。

⑤特約事項

貸主と個別に取り決めたことがあれば、あとあとのトラブルを防ぐために記載しておきます。

特約事項は、「覚書」や「合意書」と同じような目的で使われます。


賃貸契約書を作成・確認する際の注意点とは

この章では、賃貸契約書の内容に関する注意点を3つお伝えします。

  • どちらにも平等な契約であること
  • 第三者が見ても判断できる内容であること

賃貸契約書の作成では、上記が重要なポイントになります。

一方的で不利な契約条件になっていないか

契約条件が、オーナー側の都合を重視した一方的で不利な内容になってないか、借主側の立場に立って確認してみましょう。

 

たとえば、何らかの違反があった際に法外な違約金を求める内容になっていたり、1日でも家賃を滞納したら退去を命ずるような内容になっていたりすると、さすがに借主が不利になってしまいます。

厳密に言えば、1日家賃を滞納しても退去を命ずることはできませんので、法律に沿った内容であることも重要です。

契約条件は、常識の範囲内でお互いが納得できる内容にしましょう。

契約期間や解約条件が定められているか

契約期間は「いつからいつまで物件を貸し出すのか」、解約条件は「解約する際はどれくらい前に通達する必要があるのか」を取り決めたものです。

賃貸契約書に必ず記載すべき基本的な内容であり、これらが記載されていないと契約条件の全てが曖昧になってしまいます。

 

なお、解約条件は「1ヵ月前」との表現だと曖昧になってしまうため、「30日前」などの具体的な日数を記載しましょう。

原状回復に関する具体的な取り決めがされているか

賃貸契約書には、借主が退去する際の原状回復に関する取り決めを具体的に記載する必要があります。

原状回復費用の金額や負担割合は、賃貸契約の解約時にトラブルの要因になりやすい要素です。

なお、原状回復については、国土交通省からガイドラインが出されています。

下記のリンクから内容を確認し、国のガイドラインに沿った取り決めを契約書に記載してください。

住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のダウンロード – 国土交通省 (mlit.go.jp)


賃貸契約書はテンプレート(雛形)を利用してもいい?

賃貸契約書には記載すべき項目が多数あるため、全てを自力で作るのは大変な労力がかかります。

そのため、テンプレートを利用して、自身が所有する物件に合わせてカスタマイズするのがおすすめです。

なお、賃貸契約書のテンプレートは国土交通省が発行する「賃貸住宅標準契約書」を利用するのが一般的です。

テンプレート利用の利点と問題点

テンプレートを利用することで、賃貸契約書を作成する手間を大幅に軽減できます。

記載すべき項目のヌケを防ぐこともでき、データとして保管しておけば楽に管理できるはずです。

 

ただし、契約内容によっては、テンプレートを利用しても「どこをどう編集すればいいのかわからない」となることもあるかもしれません。

賃貸契約の取り決めには不動産に関する専門知識が必要な部分があるため、「分からないながらにやってみる」では通用しないケースもあるでしょう。

複雑な条件がある場合は専門家へ作成を依頼しよう

契約内容に複雑な条件がある場合は、無理をせずに専門家に依頼することをおすすめします。

専門家に依頼すれば、記載すべき内容の抜け漏れや、一方的で借主にとって不利な契約条件となってしまうことを防げるはずです。 

賃貸契約書作成の依頼先としては、弁護士・行政書士・契約書作成代行会社などが選択肢になるでしょう。


賃貸契約で注意したいトラブル事例と解決策

この章では、賃貸契約でのトラブルとしてよくある事例と、その解決策を解説します。

トラブルを未然に防ぐため、きちんと把握しておいてください。

よくある契約上のトラブルその①入居前

賃貸契約の入居前に起きるトラブルとして、以下の3つがよくある例です。

 

  • 申し込みの取り消しができない

  • 初期費用を請求する際に「言った」「言わない」の揉めごとが発生する

  • 契約に必要な書類に不備がある

 

解決策

まず、賃貸契約は契約書に署名・捺印した時点で効力を発揮します。

従って、その前の時点であれば、たとえ入居審査が終わっていても入居希望者は申込をキャンセルすることが可能です。

申込をしただけという段階であれば、貸主側は違約金を請求する権利もないので注意してください。 

物件契約時の初期費用に関しては、賃貸契約書に細かく記載したうえで、口頭で説明して合意を得る必要があります。

 

また、賃貸物件の契約時には身分証明書の写し、印鑑証明書などの公的書類が必要です。

借主が全ての書類を問題なく提出できるよう、チェック表を渡してあげるなどの工夫をした方がいいでしょう。

よくある契約上のトラブルその②賃料支払

賃料支払に関するトラブルとして代表的なのは、やはり未払い・滞納です。

これを未然に防ぐための対処法や、未払い・滞納が起きたときの解決策を把握しておきましょう。

解決策

未払い・滞納を防ぐためには、やはり「保証会社」の導入をおすすめします。

一般的に保証会社に支払う費用は入居者が負担するため、オーナーに費用負担はありません。

  • 入居者への毎月の家賃請求・管理
  • 滞納発生時の督促・回収
  • 滞納発生時のオーナーへの家賃保証(代位弁済)

家賃保証会社は、保証人の代わりとなり上記を行ってくれます。

また、退去時の原状回復費用も条件に応じて保証してくれるので、オーナーのメリットが多いでしょう。 

保証会社を入れない場合、未払い・滞納が起きた際は以下の順番で対処していきます。

  1. 電話・メールなどで連絡・催促する

  2. 内容証明郵便で支払い請求を通達する

  3. 連帯保証人に連絡する

  4. 内容証明郵便で解除通知を送る

  5. 支払い・明け渡しに関する法的手続きをとる

 

万が一の場合は上記の手順で対処することを、契約書にサインしてもらう前に説明しておいた方がいいでしょう。

よくある契約上のトラブルその③更新時

賃貸契約を更新する際によくあるトラブルとして、以下のものが挙げられます。

  • 更新料の支払いを拒否される

  • 賃料の値上げを通達したが応じてくれない

  • 更新を拒否したいが応じてくれない

 

解決策

まず、更新料については賃貸契約書に明記しておかなくてはなりません。

賃料の値上げについては、「借地借家法第三十二条」において「正当な理由があれば可能である」とされています。

ただし、実際に賃料を値上げするには借主の合意を得る必要があり、理由や根拠となる資料を揃えたうえで借主・オーナー双方での話し合いが必要になります。

 

また、契約更新を拒否するにも正当事由が必要です。

たとえば「家賃を何ヵ月も滞納している」「ペット禁止の物件で犬・猫を飼っている」などの理由があれば、オーナーが契約更新を拒否する権利はあります。

契約の更新拒否が理由で裁判にまで発展するケースもありますので、トラブルを未然に防ぐために、契約時にあらゆるケースを想定して説明をしておいた方がいいでしょう。

よくある契約上のトラブルその④退去時

賃貸物件の退去時によくあるトラブルとして、原状回復費用の精算に関するものが代表的です。

貸主からの請求に対して、借主が「費用が高すぎる」「こちらの責任ではない」などと申し出るケースが多くあります。

解決策

退去費用に関するトラブルを未然に防ぐため、原状回復に関する具体的な取り決めを賃貸契約書に記載しておく必要があります。

契約締結前に口頭で説明するのはもちろん、退去の申し出を受けた際に退去費用については契約書に記載されていることをアナウンスしておいた方がいいでしょう。

また、原状回復に関する取り決めは、国土交通省が発行するガイドラインに沿った内容にすることをおすすめします。

 不安があれば早めに専門家へ相談する

賃貸物件の契約において、借主とのトラブルはよくあることです。

こうしたトラブルを未然に防ぐために、賃貸契約や原状回復などについては法的な基準が定められています。

何か不安なことがある場合は、早めに専門家に相談した方が得策です。

知識・経験共に豊富な専門家が、法的な視点からトラブル解決に導いてくれるでしょう。

 


まとめ

賃貸契約書は、オーナーが借主に物件を貸し出すに当たってのルール・決まりごとなどを文書にまとめたものです。

これにより契約前の「言った」「言わない」から発生するトラブルを防止する役割があります。

賃貸契約書は管理会社が作成してくれるケースが一般的ですが、オーナーも任せきりにするのではなく、その内容を理解しておく必要があります。

 

また、自主管理の物件などで賃貸契約書を自身で作成する場合は、国土交通省が発行する「賃貸住宅標準契約書」を利用しましょう。

賃貸契約では、オーナーと借主との間でトラブルが起きることがよくあります。

トラブルを未然に防ぐためにも、不備のない賃貸契約書を作成し、借主からの合意を得た状態で契約締結することが大切です。

契約書作成でのお困り事や、物件管理を依頼したい、とお悩みのオーナー様はぜひ弊社までご相談くださいませ。

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