「認知症の親の代わりに不動産を売却できるのか?」
厚生労働省によると、2040年には高齢者の約15%が認知症になると推計されています。 そんな状況化において、介護費用を捻出するために親名義の不動産の売却を検討している方は多いはずです。
結論からいうと、認知症の親の不動産を勝手に売買することはできません。また、親の認知症の進行状況によっては、契約を結んでも無効になる場合があります。また、親の認知症の進行状況によっては、契約を結んでも無効になる場合があります。
そこで、この記事では認知症になった親の不動産売買可否についての判断基準や、親の不動産問題の解決策を認知症の程度別に解決します。認知症の親の不動産問題を適切に解決するためには、早めの情報収集と専門家への相談が重要です。
この記事で分かること |
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目次
- 認知症になった親は不動産売買できるのか
- 法律規定と医師の判断による
- 【軽度認知症】判断能力があれば契約は有効
- 【重度認知症】意思能力がなければ契約は無効
- 親が重度認知症!不動産売却はどうする?
- 選択肢1.「成年後見制度」を活用する
- 選択肢2.親が亡くなるまで売却を待つ
- 親が軽度認知症!不動産売却はどうする?
- 選択肢1.判断能力があるうちに売却する
- 選択肢2.任意後見制度を活用する
- 選択肢3.家族信託を利用する
- 選択肢4.生前贈与で名義人を変更する
- 法定後見制度を利用した不動産売却の方法
- 法定後見制度の申し立てに必要な書類
- 法定後見制度の利用にかかる費用
- 法定後見制度による売却の流れ
- 申し立てから売却までの期間目安
- 認知症になった親名義の不動産売却で注意すること
- 事前の話し合いで家族間の意見対立を防ぐ
- 成年後見制度が認められない場合もある
- 前提として住宅ローンが完済していること
- 売却進行中に親が亡くなることも視野に入れる
- まとめ
認知症になった親は不動産売買できるのか
まず、勝手に親の不動産を親族が売却したり、親名義で物件を購入したりすることはできません。
不動産をスムーズに売買できるか否かの判断基準は、認知症の「程度」によって変わってきます。
法律規定と医師の判断による
認知症になった親名義の不動産を売買できるか否かは、法律規定と医師の判断にかかっています。
まず、民法第3条2項では「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定められています。
意思能力とは、「自分の行動が法律的にどのような結果に結びつくかを判断する能力」を指す法律用語です。
そして、当事者に意思能力があるか否かの判断をするのは、医師の役割です。よって、医師が親の認知症の程度をどう判断するかによって、不動産売買の可否は変わってきます。
【軽度認知症】判断能力があれば契約は有効
親の認知症が軽度であれば、不動産売買契約を結ぶことは可能なケースが多いです。この場合の軽度の認知症とは、医師が「意思能力(判断能力)がある」と診断した場合を指します。
たとえば、親自身が不動産の売却理由や契約内容について十分に理解し、自分の意思で売却を決断できる状態である必要があります。
ただし、現時点では軽度の認知症だとしても、時間が経つにつれてその症状が深刻になっていくことが想定されます。意思能力がなくなってしまっては、不動産売買契約を締結できなくなるのでタイミングには注意しなくてはなりません。
【重度認知症】意思能力がなければ契約は無効
意思能力がないと判断された重度の認知症では、不動産売買契約を結んでも無効になります。たとえば、親が売却に同意したかのように見えても、実際には契約内容を理解していない状態であれば、その契約は無効とされます。
また、親族が、親の意思を推測して売却することも認められません。よって、基本的には親名義の不動産を売買することはできません。
ただし、「成年後見制度」を利用すれば、親名義の不動産を売却することも可能です。次章で詳しく解説します。
親が重度認知症!不動産売却はどうする?
親が重度の認知症の場合は、親名義の不動産を売却するうえで下記2つの選択肢があります。
- 「成年後見制度」を活用する
- 親が亡くなるまで売却を待つ
それぞれのケースの概要、メリット・デメリットについて解説します。
選択肢1.「成年後見制度」を活用する
重度認知症になった親名義の不動産を売却するには、成年後見制度を利用する以外に方法はありません。
成年後見制度とは、認知症や知的障害などで判断能力が低下した方の権利・財産を守るための制度です。当事者の代わりに、家族などが代理人(成年後見人)となって財産管理や法的な手続きを行います。
成年後見人になるには、家庭裁判所に申立てをし、選任を受ける必要があります。
成年後見制度のメリット
成年後見制度を利用するメリットとして、下記の項目が挙げられます。
- 認知症になった親名義の不動産を売却できる
- 本人の権利と財産を保護できる
- 認知症になった親を詐欺被害から守ることができる
- 適切な判断ができない親の財産の使い込みを防げる
- 親の生活全般のサポートができる
成年後見人は、本人の代わりに法的な手続きを進められるほか、本来は本人にしかできない預貯金の入出金や、口座の解約手続きなども進められます。それによって、本人の権利と財産を保護できるのが、成年後見制度のメリットです。不動産を売却して得た資金を介護費用や生活費に充てることで、経済的な余裕が生まれ、親族が抱える介護に関する精神的な負担も軽減されるでしょう。
成年後見制度のデメリット
成年後見制度を利用するデメリットとして、下記の項目が挙げられます。
- 手続きが複雑で、時間と労力がかかる
- 申立ての費用は自己負担になる
- 成年後見人に選任されると、原則として解除できない
- 本人の財産状況が開示され、プライバシーが守られにくくなる
成年後見人制度の申立てから選任までは、数週間から2ヶ月程度の時間がかかります。手続きが複雑なため労力もかかり、仕事などに悪影響を及ぼすかもしれません。
また、成年後見人に選任されると、原則として制度の解除はできません。仮に親の認知症が回復に向かったとしても、本人に権利を戻すのは難しくなります。
選択肢2.親が亡くなるまで売却を待つ
不動産の売却を急がない場合、親が亡くなるまで待つという選択肢もあります。
親が亡くなった後であれば、不動産は相続の対象となり、相続登記を行って名義を変更した上で、相続人の意志で売却手続きを進めることが可能です。相続登記とは、不動産の所有権を亡くなった親から相続人へ正式に移転するための手続きです。
この手続きには、戸籍謄本や相続関係説明図、遺産分割協議書、不動産の登記事項証明書など、多くの書類が必要となります。これらの準備や登記申請には専門知識が求められるため、スムーズに進めるためには司法書士に依頼することをおすすめします。
さらに、親が亡くなる前に相続権を持つ親族間で話し合いを行い、不動産をどのように扱うかを事前に決めておくことが重要です。特に、以下の点について意見を統一しておくことで、親の死後、売却を円滑に進めることができます:
協議事項
- 遺産分割協議書の作成方針: 不動産を売却するか、誰が取得するかを決めた上で、協議書に明記しておく。
- 売却後の資金分配方法: 売却益をどのように分けるかを事前に合意しておくことで、後々のトラブルを防ぐ。
- 不動産の管理責任者の決定: 売却が完了するまでの間、不動産の管理を誰が行うかを明確にしておく。
これらを事前に話し合っておくことで、親が亡くなった後に発生しがちな相続人間の意見の対立や手続きの遅れを防ぐことが可能です。
また、親が元気なうちにエンディングノートなどに希望を書き留めてもらうことも有効です。これにより、親の意思を尊重した形で手続きが進められるため、親族間の合意形成がスムーズになります。
親が亡くなった後は、売却手続きや相続税の支払いが必要になる場合もあるため、相続に詳しい弁護士や税理士にも相談しながら計画を立てることをおすすめします。事前に準備を進めることで、予期せぬトラブルを最小限に抑え、売却をスムーズに行えるでしょう。
親が軽度認知症!不動産売却はどうする?
親の認知症が軽度な場合、つまり意思能力がある場合は、下記4つの選択肢があります。
- 判断能力があるうちに売却する
- 任意後見制度を利用する
- 家族信託を利用する
- 生前贈与で名義を変更する
選択肢1.判断能力があるうちに売却する
親が適正な判断ができる状態なら、認知症が進行する前に売却するのが有効です。
意思能力があると医師から診断されていれば、問題なく売却手続きを進められます。
ただし、もちろんこれは親が自分の意志で不動産売却を決断した場合に限ります。親にとって、不動産は思い出が詰まった人生の努力や功績を象徴する大切な資産です。売却することに心理的な負担や抵抗感を覚えることがあり、説得に時間がかかる場合もあります。
選択肢2.任意後見制度を活用する
前述した成年後見制度は家庭裁判書に申立てをして後見人の選任を受ける必要がありますが、親の認知症が軽度あれば、親の意志で後見人を選定し、契約を結ぶことが可能です。
これを、任意後見制度といいます。任意後見契約の締結は、公証役場で定められている公正証書の様式で行います。
ただし、任意後見人の効力が発揮されるのは、本人の意思能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選定してからです。任意後見人の不正を防ぐために任意後見監督人の監督を受ける必要があり、その費用の支払いも発生します。
選択肢3.家族信託を利用する
家族信託とは、認知症などの信託に備えて、本人が所有する財産の管理・運用を家族に任せる制度のことです。
家族信託のメリット
家族信託のメリットは、任意後見制度よりも柔軟な財産管理が可能なことです。契約時に定めた信託目的の範囲内であれば、不動産の売却・賃貸運用などができたり、売却益の使い道を介護費用・孫の教育資金などに充てたりすることができます。
家族信託のデメリット
家族信託契約を締結するには、信託口座の開設などの複雑な手続きや専門知識が必要です。また、不動産を信託財産に入れる場合は、名義変更のための登録免許税が課せられます。
これらの手続きを専門家に依頼する場合は、その分の報酬が必要になります。
また、不動産の売却や運用から発生した利益を家族が不正利用するのを防ぐため、信託管理人を置くなどの対策が必要になります。
選択肢4.生前贈与で名義人を変更する
認知症が進行する前に、生前贈与で不動産の名義人を変更するのも一つの選択肢です。
生前贈与のメリット
生前贈与で名義を変更しておけば、親の認知症が進行した後でもスムーズに不動産を売却できます。また、相続税の節税効果があるのも生前贈与の利点です。
また、配偶者居住権を設定すれば、子の名義となった不動産にそのまま親が住み続けることも可能です。
生前贈与のデメリット
生前贈与は、一度契約を締結するとその後の取り消しが難しくなります。場合によっては贈与税が発生するケースがあり、親の生活費や介護費用の捻出が難しくなる可能性があります。生前贈与を行う場合は、慎重に検討したうえで手続きを進める必要があります。
法定後見制度を利用した不動産売却の方法
法定後見制度とは、家庭裁判所が後見人を選定する制度のことです。
この章では、法定後見制度を利用して不動産を売却する際の必要書類・費用・手続きの流れ・期間の目安について解説します。
法定後見制度の申し立てに必要な書類
法定後見制度の申立てを行うには、下記の書類を揃える必要があります。
申立書一式 |
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本人に関する資料 |
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戸籍謄本 | 市町村役場で取得 |
住民票 | 市町村役場で取得 |
後見登記されていないことの証明書 | 法務局本局で取得 |
医師による診断書 | 病院・診療所で取得 |
愛の手帳の写し | 本人が知的障害者の場合 |
申立書一式は、家庭裁判所の公式サイトからダウンロードする、もしくは直接窓口に出向いて受け取ることができます。
法定後見制度の利用にかかる費用
法定後見制度の利用には、下記の費用がかかります。
申立て手数料 | 800円 |
登記手数料 | 2,600円 |
郵送料 | 数千円 |
鑑定料 | 10万円~20万円 |
鑑定料は、本人の意思能力の有無を確認するのに鑑定が必要であると判断された場合に発生します
法定後見制度による売却の流れ
法定後見制度を利用する際は、下記の流れに沿って手続きを進めていきます。
- 家庭裁判所に申立てを行う
- 申立内容を審判してもらう
- 成年後見人の選定を受ける
- 不動産の売却活動を開始する
- 家庭裁判所に「居住用不動産処分の許可の申立」を行う
- 買主と売買契約を結ぶ
- 物件を引き渡し、売却代金を受け取る
この手続きの中で特に大変なのは、家庭裁判所に申立てを行う際の必要書類の準備と、不動産の売買活動です。
申立ての必要書類は、自治体や医療機関、不動産会社を訪ねて収集しなければなりません。さらに、これらの書類には正確さが求められ、記載ミスや不足があると手続きが遅れる可能性があります。
売却活動では、家庭裁判所の許可を得るまで契約を結べないため、買主が他の物件に流れるリスクがあります。
申し立てから売却までの期間目安
法定後見制度による不動産の売却は膨大な手間がかかるため、申立てから売却までに6ヶ月ほどかかることが予想されます。
もちろん、スムーズに売却先が決まらない場合はその分時間がかかるため、1年以上の期間が必要になるケースもあるでしょう。
認知症になった親名義の不動産売却で注意すること
最後に、認知症になった親名義の不動産売却に関する注意点として、下記の4点を解説します。
- 事前の話し合いで家族間の意見対立を防ぐ
- 成年後見制度が認められない場合もある
- 前提として住宅ローンが完済していること
- 売却進行中に親が亡くなることも視野に入れる
いずれも重要な内容なので、早いうちから理解しておくことが大切です。
事前の話し合いで家族間の意見対立を防ぐ
親名義の不動産をどうするかについては、家族間でよく話し合って意見を擦り合わせることが大切です。
本記事で紹介したように、親の認知症の程度に合わせて、不動産の売却方法には複数の選択肢があります。それぞれの選択肢にはいずれもメリット・デメリットがあり、どの方法がベストかは一概にはいえません。
家族間で意見を統一しないまま何らかの手続きを始めると、あとあと意見の衝突が発生する可能性があります。家族間に溝を作ってしまう要因になりかねないので、独断で決定しないよう注意してください。
成年後見制度が認められない場合もある
認知症になった親の不動産を売却する方法として成年後見制度は有用ですが、場合によっては家庭裁判所への申立てが認められないケースもあるようです。
不動産を売却して現金化すれば、実質そのお金はさまざまな用途に活用できてしまいます。成年後見制度によって決定権が与えられているとはいえ、正当な理由なく親の財産である不動産を現金化することは許可されない可能性もあります。
成年後見制度の申立てを通すには、不動産を売却せざるを得ない理由と証拠の提示が必要です。
前提として住宅ローンが完済していること
不動産を売却するには、住宅ローンが完済していることが基本的な前提条件です。ローンが残っている場合、不動産そのものが金融機関の担保として設定されており、その状態での売却は制約を受けるためです。
一般的には、売却に際してローンの繰り上げ返済を行い、完済したうえで抵当権を解除する必要があります。しかし、親が認知症で判断力を失っている場合はローンの繰り上げを認められない可能性があり、売却は難しくなります。
また、売却予定の不動産の市場価値がローン残高を下回っている場合、売却後に不足分を自己資金で補填しなければなりません。この場合、親の財産だけで補填できない場合には、家族が負担を強いられる可能性もあります。
売却進行中に親が亡くなることも視野に入れる
不動産の売却進行中に親が亡くなると、手続きが一時中断され、相続人全員での遺産分割協議が必要となります。この協議がスムーズに進まない場合、売却が大幅に遅れる可能性があります。特に、相続人が多い場合や親族間で意見が食い違う場合、協議が長引くことで売却そのものが困難になるため注意しなくてはなりません。
さらに、親が亡くなったタイミングによっては、不動産の相続税評価額が影響を受けることも考えられます。不動産が高値で評価された場合、相続税負担が重くなり、売却益が目減りする可能性があります。
これらのリスクを最小限に抑えるためには、親の認知症が進行する前に親族間で十分に話し合い、相続に関する意見を事前に調整しておくことが重要です。さらに、専門家である司法書士や税理士に相談し、売却手続きや相続対策を早めに進めることをおすすめします。
まとめ
この記事では、認知症の親名義の不動産を売却する際に知っておくべき注意点や手続き方法について解説しました。
認知症の親名義の不動産は、勝手に売買することはできません。親の認知症の進行状況によっては、不動産売買契約を締結しても向こうになる可能性があります。
親の不動産をどのように売却するかは、まずは親の認知症の進行具合を診断してもらうことが大切です。意思能力がないと判断された場合は、成年後見制度を活用するのが唯一の手段となります。
親の認知症が軽度な状態であれば、家族信託を利用したり、生前贈与で不動産の名義を変更したりなど、複数の選択肢が残されています。
いずれにせよ、親名義の不動産を売却するには複雑な手続きが必要で、時間も労力もかかります。少しでもスムーズに問題を解決できるよう、1日でも早く動き出すことが大切です。
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