賃貸経営を始める際、運用する収益物件の構造選定はとても重要です。
- 木造
- 鉄骨造
- 鉄筋コンクリート造
それぞれに独自の特徴(特性)やメリット・デメリット、リスクがあります。しっかり理解しておかないと、所有後に思わぬ修繕リスクに見舞われてしまうかもしれません。
本記事では、賃貸物件のオーナーとして自分にとって最適な選択ができるよう、これらの構造の特性やコストに注目して解説していきます。
オーナーの収益性、そして入居者にとって快適な住環境について網羅的に比較・分析していきます。賃貸経営の成功の鍵となる物件選びのポイントを、ぜひご一読ください。
本記事を読んでわかること |
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目次
木造の特徴
木造とは、主に木材を使用して建築された建物のことを指し、古くから日本の建築に利用されてきた素材です。
「木造建築」は日本の伝統的な建築様式として親しまれ、神社や寺院などでも用いられています。
天然素材である木材は、その自然な風合いや温かみが落ち着きをもたらし、心身ともに良い効果を与えるとされています。
- 木材を1本1本「線」として枠組みしていく在来工法(設計の自由度が高い)
- 木材を1つの「面」として枠組みしていくツーバイフォー工法(災害・火災に強い)
木造では一般的に、上記2つの方法のどちらかで施工されています。
木造の特徴のひとつは、その軽量さです。木材は他の建材に比べて非常に軽く、構造体が軽くなり地震の際に揺れを吸収しやすいです。
また、他の素材と比べて加工がしやすく、デザインの自由度が高いことも挙げられます。経年劣化によってリノベーションが必要になった際も、間取り変更などが比較的容易です。
次に、木造のもうひとつの大きな特徴はその調湿性です。木材には湿度を吸収したり放出したりする特性があります。
この特性により、室内の湿度を適度に保つことができ、結露やカビの発生を防いで快適な室内環境が維持されるのが特徴です。
1. 断熱性
木材は熱を伝えにくい特性を持っているため、木造住宅は「夏は涼しく冬は暖かい」室内環境が保たれやすいです。
そして、木造建築では断熱材を使用することが一般的です。断熱材を適切に配置することで、さらなる断熱性能を高めることができます。特に、外壁や屋根、床などに断熱材をしっかりと施工することで、室内の温度変化を最小限に抑えることができます。
また、木造住宅は断熱性と気密性が密接な関りを持っており、気密性を高めることで、断熱効果を最大限に引き出すことが可能です。
そのため、近年は施工技術の向上も相まって、エネルギー効率の高い住宅を実現できる傾向にあります。
2. 耐用年数
法定耐用年数を見ると、木造は居住用は33年とされていますが、事業用(賃貸)は22年と短くなります。減価償却を行う際にも、事業用で適用されます。
しかし、実際には正しく設計・施工された木造住宅では50~60年程度住むこともできます。また、防蟻工事など適切なメンテナンスを行うことで、建物の延命も可能です。
ただし、他のものと比べて遮音性は低く、隣室や上下階からの音漏れがしやすいでしょう。
入居者自身もこの点を理解しており、あえて木造を外して部屋探しをする人も多いようです。
3. 耐火性
一般的に木材は燃えやすい素材であると考えられていますが、実際には木造建築も一定の耐火性能を持っています。これは、木材が燃える際に炭化層ができ、その炭化層が内部のさらなる燃焼を防ぐ役割を果たすためです。
また、現代の木造建築では、耐火性を高めるためにさまざまな技術が導入されています。例えば、耐火性能が向上した木材や、耐火ボードを使用することで、建物全体の耐火性能を強化することができます。
とは言っても、やはり鉄材よりは劣ってしまう、というのが実情でしょう。
4. 耐震性
地震大国である日本において、気になるのが耐震性能でしょう。
木造建築は軽量であり、地震に強いとされています。他の素材と比べて木材は柔軟で、揺れを吸収しやすいため、構造体にダメージが少なく済むのです。
現代の木造建築は耐震技術が進化しているため、制振ダンパーなどの設備導入により、建物全体の耐震性能が大幅に向上しています。
物件選びの際に考慮するのは1981年5月31日を境目とする「旧耐震基準」と「新耐震基準」が大きなポイントですが、意外と知られていない「2000年基準」もあります。
2000年基準では、「新耐震基準」新たな変更点も加えられたため、1つの目安として抑えておきましょう。
鉄骨造の特徴
鉄骨造とは、建物の主要な構造部分に鉄骨を使用する建築工法のことで、コンクリートの中に鉄骨が埋め込まれています。
鉄骨は強度が高く、耐久性や耐火性に優れています。
そのため、住居以外にも体育館や高層ビル、事務所など様々な用途に利用されています。
- 高層ビルや商業施設など規模の大きいもの=重量鉄骨(鉄骨の厚み6mm以上)
- 住宅やアパートなど規模の小さいもの=軽量鉄骨(鉄骨の厚み6mm未満)
両者の違いは鉄の厚みで、重量鉄骨の方が鉄の密度が高くなっています。
1. 断熱性
鉄骨造の建物は、他の構造に比べて断熱性が低いことが多いです。これは、鉄が熱を伝えやすいためです。
建物の内部が冷暖房効率が悪くなりやすい原因となります。断熱効果を高めるためには、外部の断熱材や内装材を用いる必要があります。
特に、外壁部分に適切な断熱材を設置することで、一定程度は改善が可能ですが、これにより施工コストの増加が懸念されるでしょう。
冬場の寒さや夏の暑さを防ぐためには、しっかりとした断熱対策が求められます。
2. 耐用年数
鉄骨造の法定耐用年数は、鉄骨の厚みで異なります。
- 鉄骨造(3mm以下):事業用19年
- 鉄骨造(3mm超4mm以下):事業用27年
- 鉄骨造(4mm超):事業用34年
一見木造よりも頑丈そうに思える鉄骨造ですが、最も厚みの薄い3mm以下のものは、木造よりも短い19年となります。
3. 耐火性
鉄骨造は耐火性にも優れています。鉄骨そのものは高温に耐える性質を持っていますが、直接火にさらされると変形や弱体化することがあります。
そのため、耐火被覆材を施すことが一般的です。耐火被覆材を使うことで、火災時の耐久性が大幅に向上します。
また、鉄骨は燃えにくいため延焼を防ぐ効果がありますので、火災発生時のことを考えると、木造よりは安心できるかもしれません。
4. 耐震性
鉄骨造の耐震性は、他の構造に比べても優れています。鉄骨は鉄や鋼の持つ「粘り」によって地震に耐える構造をしています。
重量鉄骨の多くは、地震の衝撃を和らげるための制振設計が施されていることでしょう。
また、鉄骨は修理や補強が比較的容易で、災害後の復旧も早いことが利点です。
鉄筋コンクリート造の特徴
鉄筋コンクリート造は、セメントと砂・砂利を混ぜ合わせて作られており、建築材として広く使われる構造の一つです。
鉄筋とコンクリートという異なる素材を組み合わせることで、それぞれの素材の弱点を補完し合う強固な構造体を作り出します。
そのため、高層ビルや公共施設、住宅など幅広い用途で使用されています。
コンクリートの中に複数本の鉄筋が入っている鉄筋コンクリート造(RC造)、またこの鉄筋コンクリート造の中に鉄骨を埋め込んだ鉄筋鉄骨コンクリート造(SRC造)の2つがあります。
コンクリートは圧縮に強い性質を持っており、耐久性、耐火性、耐震性に優れ、断熱性も高いことが特徴です。
加えて、鉄筋コンクリート造は音を吸収しやすい特性があり、防音効果も期待できます。
また、雨風や地震に対しても強い構造体かつ時間が経っても劣化しにくいので、長期間にわたってその特性を維持することが可能です。
つまり、鉄筋コンクリート造は、あらゆる建築ニーズに対応できる信頼性の高い構造形式と言えます。
1. 断熱性
鉄筋コンクリート造は、木造の4~10倍ほど熱伝導率が高いとされています。つまり、外気を室内に伝えやすいということです。
オフィスなどで、底冷えしている女性などが分かりやすい例でしょうか。
そのため、特に窓回りに断熱材を補填することが重要です。
夏場や冬場に購入を検討されている方は、現地内覧時に体感してみることがおすすめです。
2. 耐用年数
- 鉄筋コンクリート造:居住用47年
- 鉄骨鉄筋コンクリート造:居住用47年
国土交通省による「中古住宅流通促進・活用に関する研究会報告書」では、RC造の建物寿命は117年とされており、適切なメンテナンスをすることで実際は長期に渡り住むことができるようです。
コンクリート自体は雨にも強いのが特徴です。しかし、中に入っている鉄筋に雨水が侵入してしまうと、腐食により強度が下がってしまいます。
定期的にメンテナンスを行い、内部を守ることが大切です。
3. 耐火性
鉄材とコンクリートでできた鉄筋コンクリート造は、耐火性に非常に優れた特性を持っています。
火災発生時、鉄筋コンクリート造は高温にさらされても2時間以上耐えられる材質であるのは有名な話です。
外壁温度が1000度に達しても、強度は劣らず有毒ガスも発生しないと言います。
もしもの時のことを考えても、安心して住み続けることができそうです。
4. 耐震性
鉄筋とコンクリートによるRC造、また鉄骨を組み込んだSRC造は、高い耐震性を持っています。
- 鉄筋:引っ張りに強い
- コンクリート:圧縮に強い
上記の組み合わせにより地震のエネルギーを分散させ、倒壊リスクが低くなります。
このことから、タワーマンションなどの高層建物にも非常に適しています。
構造ごとのメリット
では、3つの構造について、それぞれのメリットを箇条書きで確認していきましょう。
1. 木造のメリット
- 設計の自由度が高く、リフォームがしやすい
- 他の構造よりも建築コストが安価
- 整形地でなくても建築しやすい
- 通気性に優れている
- 木材そのものに調質効果がある
- リラックス効果など人体へ好影響がある
2. 鉄骨造のメリット
- 耐久性や耐火性に優れている(重量鉄骨)
- 工場生産されているため、品質が一定である(部材による個体差が少ない)
- 軽量鉄骨は工期が短い
- 木造よりも高く売却できる傾向にある
- 木造よりも火災保険が安くなる
3. 鉄筋コンクリート造のメリット
- 設計の自由度がある程度高い
- 耐火性・耐久性・耐震性すべてにおいて優れている
- 遮音性(防音性)が高い
- 存在感のある建物を建築できる
- 木造よりも火災保険が安くなる
構造ごとのデメリット
次はデメリットについても着目していきましょう。
1. 木造のデメリット
- 職人の手腕によって品質に差が出やすい
- 遮音性(防音性)が低い
- 他の構造よりも耐震性が低い
- 天然素材であるため耐用年数が短い
- 害虫被害に遭いやすい
- 火災保険が高い傾向にある
2. 鉄骨造のデメリット
- 木造より建築コストが高い
- 設計の自由度が低い
- 軽量鉄骨は遮音性が低いことがある
- 場所によって地盤改良が必要になる
- 木造よりも通気性・断熱性が低く、結露が発生しやすい
- 鉄部が錆びると、強度が落ちる
3. 鉄筋コンクリート造のデメリット
- 工期が長い
- 建築できる会社が限定的である
- 建築コスト、解体コストとも高い
- 場所によって地盤改良が必要になる
【構造別】メンテナンス周期・費用の違い
最後に、3種の構造別のメンテナンス費用について解説します。
メンテナンス費用は構造自体が持つ特性と深い関わりがあり、キャッシュフローにも大きな影響を及ぼします。
収益物件においてどの構造を選ぶかは、メンテナンス費用までしっかりと理解した上で判断するようにしてください。
今回は、躯体におけるメンテナンス費について説明しましょう。
1. 木造住宅のメンテナンス
木造住宅の法定耐用年数は22年ですが、木材や職人の腕次第では100年持つとも言われています。
一般的に築10~15年で、外壁・屋根の塗装、また防水工事のメンテナンス時期とされており、約100万円程度かかるとされています。
高額であるがゆえに先送りしたり、メンテナンスをしなかったりする人もいますが、住宅の延命には必須の工事です。
また、木材の材質上、防蟻工事も必要になります。施工方法や広さによって異なりますが、5年ごとを目安に1坪5,000~10,000円程度とされています。
一棟アパートなどで費用が高額だからといって、防蟻工事をせずシロアリ被害を受けてしまうと、修繕費用に1,000万円以上かかってしまうケースもあります。
購入前には、このようなリスクにまで目を向けなければなりません。
2. 鉄骨造住宅のメンテナンス
鉄骨造住宅は、実際に住むとなると50~60年程度と言われています。
建物自体の耐久性は高いものの、鉄骨造の最大の敵は「錆」による劣化です。建物に錆が発生すると、耐久性や耐震性の低下をもたらします。
通常、雨ざらしなど錆びやすい状態に置かれていなければ、さほど劣化を気にすることはありません。
鉄骨造はその特性上、建物に水が浸入しやすいため、防水工事によるメンテナンスが必要となります。
目安としては10~15年を1つの区切りとして行うようにしましょう。
【費用相場】
- シート防水:4,000~5,000円/平米
- 塗膜防水:5,500~7,500円/平米
- アスファルト防水:5,500~8,500円/平米
3. 鉄筋コンクリート造のメンテナンス
鉄筋コンクリート造は、他の構造よりも建設費用が高額になりがちですが、その分メンテナンスの手間はさほどかかりません。
法定耐用年数で見ても木造の2倍以上で、建築時に適切な施工・コーティングをすることで25年に1度程度のメンテナンスで良いとされています。
鉄筋コンクリート造において特に気を付けるべきは、「欠け」や「ひび割れ(クラック)」による雨水の侵入です。
雨水の侵入により素材が劣化すると、コンクリートそのものが持つ高性能さを低減させてしまいます。
まとめ
本記事では、木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の違いについて解説しました。
木造は天然素材という強みを生かし、木材が持つ高い調質性やぬくもり・温かみがあります。しかしながら、職人が建築現場で加工する必要があるため、その技術によって施工の良し悪しが出やすいのがデメリットでしょう。
また、入居者からすると遮音性が低い点が気になるところです。
一方で、工場で加工する鉄骨造や鉄筋コンクリート造は、職人による施工技術のバラつきは小さく、耐震性・耐火性に優れ、長期間住み続けることができます。ただし、コストが高くなるというデメリットもありますので、収益物件として選ぶ際には、総合的な判断が求められます。
メンテナンス費用も踏まえた上で、収益を出し続けられる物件を探していきましょう。
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