
近年、IoT技術を活用した「スマート賃貸経営」が注目されています。スマート賃貸経営とは、「スマートロック」などの設備や「IoT家電」の導入により、物件の魅力を高めることです。
しかし、賃貸経営においてスマート設備の導入は魅力を高める一方で、初期費用や維持コストもかかるため、導入前に費用対効果をしっかりと検討することが重要です。
この記事では、IoTを活用した賃貸経営の方法とその導入メリットについて詳しく解説します。空室改善にお悩みのオーナー様は、ぜひ参考にしてみてください。
この記事で分かること |
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目次
- IoT不動産で変わる賃貸経営
- IoT不動産とは何か
- 不動産業界はIoT化が遅れている
- IoT不動産とスマートハウスの違い
- 賃貸経営で活躍するIoT設備8選
- 1.スマートロック
- 2.スマートメーター
- 3.開閉センサー
- 4.スマートリモコン
- 5.スマートスピーカー
- 6.ネットワークカメラ
- 7.スマート宅配ポスト・宅配ロッカー
- 8.スマートHEMS
- IoT不動産のメリット5選
- 1.空室対策になる
- 2.管理の手間を減らせる
- 3.物件の価値を高められる
- 4.経費削減につながる
- 5.防犯強化になる
- IoT不動産のコスト効率から見たおすすめ設備
- 失敗しない設備投資の考え方
- 初期費用と維持費の目安
- 家賃・入居率アップが期待できるおすすめ設備は?
- IoT不動産にするための進め方と注意点
- どの設備を導入するかを考える
- 導入コストを減らす方法を探す
- 入居者へ通知・工事日程を調整する
- 空室募集時にPRする
- まとめ
IoT不動産で変わる賃貸経営
IoT技術の進化により、賃貸物件の在り方が大きく変わりつつあります。空室対策や賃貸経営の効率化にもつながるIoT不動産は、今後ますます欠かせない要素となるでしょう。
本章では、IoTがもたらす賃貸経営の変化について解説します。
IoT不動産とは何か
IoTとは「Internet of Things」の略称で、「モノのインターネット」を意味します。
家電や設備などのさまざまな「モノ」がインターネットに接続され、遠隔操作やデータのやり取りができる技術を指します。この技術を不動産に活用したのが「IoT不動産」です。
たとえば、入居者は従来の鍵を使わずにスマートフォンだけで鍵の施錠・解錠ができます。また、スマートフォンにより鍵の閉め忘れの確認や開閉履歴のチェックも可能です。
近年、このようなIoT技術を活用した住環境の利便性向上が進んでおり、スマート賃貸経営の導入が広がりつつあります。こうした流れは、個々の物件にとどまらず、都市全体のスマート化にもつながっています。日本政府も「スマートシティ」構想を推進し、IoTやAIを活用した都市整備を進めています。
不動産業界でもこの流れに対応することが求められ、IoT不動産の導入は今後さらに重要になるでしょう。
不動産業界はIoT化が遅れている
IoT技術は、製造業、物流業、小売業などさまざまな業種で活用が進んでいます。
【活用例】
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一方で、不動産業界のIoT化は、他の業種と比較して遅れているのが現状です。その理由には「初期コストの高さ」「業界全体のデジタル化の遅れ」「オーナーの意識不足」があります。
不動産業界はいまだ契約手続きや管理業務が紙ベースやFAXで行われることが多く、デジタル化への移行が進みにくいのが現状です。これは、法律や規制の影響が大きく、一部の契約書類は紙での保存が義務付けられていることが関係しています。
さらに、高齢の事業者が多く、従来の業務フローを変えることに抵抗を感じるケースも少なくありません。電子契約やクラウド管理の導入にはコストやセキュリティ面での懸念もあるため、業界全体でデジタル化が進みにくい状況が続いています。
IoT不動産とスマートハウスの違い
IoT不動産と似た言葉に「スマートハウス」がありますが、目的や役割が異なります。
スマートハウスは、HEMS(Home Energy Management System)を活用し、家庭内のエネルギーを最適化して省エネや電気代の削減を目指す住宅です。太陽光発電や蓄電池、スマートメーター、電気自動車との連携(V2H)など、環境負荷を減らす技術が導入されています。
一方、IoT不動産とは、賃貸物件の管理や入居者の利便性向上を目的としたIoT技術の活用のことです。スマートロックや遠隔管理システム、AIによる家電制御、人感センサーを活用した安否確認など、オーナー・管理会社と入居者の双方にメリットのある技術が導入されます。
スマートハウスは「省エネ」、IoT不動産は「利便性・管理の効率化」が主な目的であり、それぞれの視点が異なるのが特徴です。
賃貸経営で活躍するIoT設備8選
IoT技術を活用することで、賃貸物件の利便性や安全性が向上し、管理業務の効率化にもつながります。では、具体的にどのようなIoT設備があるのでしょうか。
賃貸経営に役立つ代表的なIoT設備を以下で8つ紹介します。
1.スマートロック
スマートロックは、インターネットやBluetoothを利用し、遠隔で施錠・解錠ができる鍵です。
従来の鍵と違い、スマートフォンや専用アプリで操作できるため、鍵の紛失や盗難の心配がなく、防犯性が向上します。
さらに、オーナーや管理会社は入居者ごとに異なるアクセス権を設定できるため、入退去時の鍵交換が不要になり、物件管理の負担を軽減できます。入居者にとっては、入居時の初期費用として「鍵交換代」が発生しない点がありがたいポイントとなるでしょう。
空室時には、一時的なアクセス権を発行できるため、仲介会社も内見の際にスムーズな対応ができます。
2.スマートメーター
スマートメーターとは、電気やガスの使用状況をリアルタイムで確認し、自動でデータを送信できるデジタル計測器です。
従来のアナログメーターと違い、検針のために訪問する必要がなくなり、電力会社や管理会社の負担を軽減します。また、入居者は専用アプリやWebページで日々のエネルギー使用量を確認でき、省エネ意識が高まります。
オーナーにとっても、空室時の無駄な電力消費を防ぎ、管理コストの削減が期待できるでしょう。
3.開閉センサー
開閉センサーは、磁力センサーなどを利用して窓やドアの開閉を検知し、異常があればスマートフォンに通知する防犯システムです。
特に、不審者の侵入対策として有効で、外出中でもリアルタイムで状況を把握できるため、より安心して生活できます。また、高齢者の見守り用途にも活用でき、一定時間窓やドアが開閉されない場合に、家族や管理会社へ自動で通知が届く機能を備えた製品もあります。
これにより、オーナーにとっては高齢者の孤独死を未然に防ぎやすくなり、事故発生による原状回復費用の負担や物件のイメージ低下を防ぐことができます。結果として、資産価値の維持や長期的な賃貸経営の安定にもつながるでしょう。
さらに、窓やドアの閉め忘れ防止にも役立ち、入居者の安心感を高める設備として人気です。
4.スマートリモコン
スマートリモコンとは、スマートフォンや音声で家電を操作できるリモコンのことです。通常のリモコンの代わりに使用し、エアコンやテレビ、照明などの赤外線リモコン対応機器を一括で管理できます。
外出先からの遠隔操作もできるため、消し忘れた家電の電源を切ったり、帰宅前にエアコンを付けて部屋の温度を快適な状態にしたりすることも可能です。夜間や長期間の外出時に遠隔で照明をつけたり消したりすることで、在宅しているように見せかけ、不審者の侵入を抑止する防犯対策としても役立ちます。
5.スマートスピーカー
スマートスピーカーは、音声操作が可能なAIアシスタントを搭載したスピーカーです。代表的な製品では、AmazonEchoの「アレクサ」があります。
対応する家電や設備とスマートスピーカーをネットワークで接続すれば、音声でさまざまな機器を操作できます。また、家電の操作だけでなく、音楽を再生したり、情報を検索したりすることも可能です。
声だけで操作できるため、身体が不自由な方や高齢者でも簡単に利用できます。
6.ネットワークカメラ
インターネットに接続して遠隔から映像を確認できるカメラのことです。従来の防犯カメラとは異なり、スマートフォンやパソコンを使ってリアルタイムで映像をチェックできるほか、録画データのクラウド保存やAIによる人物・動作検知機能なども備えています。
物件の共用部やエントランスの監視に活用し、防犯対策を強化します。
7.スマート宅配ポスト・宅配ロッカー
スマート宅配ポスト(宅配ロッカー)は、荷物の受け取りや管理を非対面かつスムーズに行えるIoT対応の宅配設備です。従来の宅配ボックスと異なり、スマートロックや通信機能を搭載し、荷物の受け取り通知や解錠をスマートフォンで行えるのが特徴です。
ネット通販を利用する機会の多い若年層向けの物件に設置すれば、居住者の利便性が高められ、物件の付加価値も上がるでしょう。
8.スマートHEMS
スマートHEMSとは、IoTを活用して住宅のエネルギーを効率的に管理するシステムです。電気・ガス・水道の使用状況をリアルタイムで可視化し、エネルギー消費の最適化や省エネを実現します。
そもそもHEMS(Home Energy Management System)とは、住宅のエネルギー使用を一元管理し、自動で消費量を調整できる仕組みのことで、このHEMSにIoT技術を組み合わせたものが、より高機能なスマートHEMSです。
IoT不動産のメリット5選
IoTの技術や設備を不動産に導入することは、賃貸経営をするオーナーにさまざまなメリットを与えます。
本章では、特に注目すべき4つのメリットを紹介します。
1.空室対策になる
IoT設備を導入することで、物件の利便性や快適性が向上し、入居希望者へのアピールポイントが増えます。特に、スマートロックやスマート家電を備えた「IoT対応物件」は、他の物件と差別化ができ、IoT機能を求める若い入居者にとって魅力的です。オンライン内見や遠隔操作による鍵の開閉が可能になれば、内見予約のハードルが下がり、より多くの入居希望者にアプローチできるでしょう。
また、今後の高齢化が進む中、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの施設は月額費用が高く、利用が難しい場合もあります。そのため、自宅で暮らす高齢者を見守る手段として、開閉センサーなどの見守り機能を備えた設備は、家族にとって安心材料となり、高く評価されるでしょう。
2.管理の手間を減らせる
スマートロックを導入すれば、鍵の紛失や交換の手間がなくなり、入退去時の管理がスムーズになります。さらに、ネットワークカメラや開閉センサーを設置すれば、遠隔で物件の状態を確認でき、現地に足を運ぶ回数を減らすことも可能です。時間がない中で自主管理を行うオーナーにとって、とてもありがたい方法です。
また、スマートメーターやHEMSを活用すれば、共用部の水栓の使用状況をリアルタイムで把握でき、入居者が勝手に使用していたり、見えない場所で水漏れが発生していたりする場合も早期に検知できます。これにより、不正利用や漏水による高額な水道料金の発生を防ぎ、オーナーの管理負担を軽減することができます。
3.物件の価値を高められる
IoT設備を導入することで、物件の付加価値が向上し、家賃設定を高めに設定できる可能性があります。
特に、スマートスピーカーやスマートリモコンと連携したIoT対応物件は、快適な生活を求める入居者にとって魅力的です。「少し良い暮らし」を実現でき、付加価値をつけやすくなります。
さらに、スマートHEMSを導入することで、省エネ志向の高い入居者の関心を引き、長期入居につながる可能性もあります。
4.経費削減につながる
IoT技術を活用することで、無駄なコストを削減することも可能です。
初期コストこそかかるものの、たとえばスマートロックを導入すれば、入居者の入れ替え時に発生する鍵の交換費用が不要になり、数回の入退去で十分に元が取れます。また、スマートリモコンを導入すれば、遠隔でエアコンや照明を制御できるため、仲介会社の内見案内時に電気やエアコンの消し忘れがあっても、自動または遠隔操作でオフにでき、無駄な電気代の発生を防ぐことが可能です。
他にも、遠隔管理ができるIoT機器を導入することで、物件の巡回や設備点検にかかる人件費の削減が期待できます。これにより、管理コストを抑えつつ、効率的な賃貸経営が可能になります。
5.防犯強化になる
ネットワークカメラや開閉センサーを設置することで、不審者の侵入を検知し、即座に通知を受け取ることができます。また、スマート宅配ロッカーを導入すれば、置き配の盗難リスクを減らし、入居者の安心感を高めることが可能です。
防犯性能の高い物件は、入居者にとって安心できる住まいとなり、退去率の低下にもつながります。
IoT不動産のコスト効率から見たおすすめ設備
賃貸経営を行うオーナーがIoT設備を導入する際は、費用対効果を考えた投資が重要です。高額な設備を導入しても、入居者のニーズに合わなければコスト回収が難しくなります。
ここでは、コスト効率の観点からおすすめのIoT設備と、導入時の費用目安を紹介します。
失敗しない設備投資の考え方
IoT設備を導入する際は、「導入コストが安く、入居率の向上や賃料アップにつながりやすいもの」を優先するのがポイントです。
設備によっては導入コストが高いわりに、収益性にあまり貢献しないものもあります。コストと効果のバランスを見極め、物件に最適な設備を選びましょう。
初期費用と維持費の目安
以下の表に、主要なIoT設備の初期費用と維持費の目安をまとめました。
初期費用 | 維持費 | |
スマートロック | 1~5万円 | 電池交換費用 |
スマートメーター | 原則無料 (電力会社が負担) | なし |
開閉センサー | 3,000~1万円 | 電池交換費用 |
スマートリモコン | 5,000~1.5万円 | 電池交換費用 |
スマートスピーカー | 6,000~3万円 | なし |
ネットワークカメラ | 1~5万円 | クラウド保存費用 |
スマート宅配ポスト・宅配ロッカー | 10~50万円 | スマートロック・通信機能付きモデル |
スマートHEMS | 10~30万円 | 無料~1,000円程度/月 |
※初期費用や維持費は製品やサービスによって異なります。
家賃・入居率アップが期待できるおすすめ設備は?
賃貸経営を行うオーナーにとって、IoT設備の導入を検討することは重要な施策ですが、すべての設備が収益性の向上に直結するわけではありません。導入コストと効果のバランスを見極めることが大切です。
特におすすめなのは、スマートロック、スマートメーター、開閉センサーの3つです。
スマートロックは、長期的なコスト削減につながるだけでなく、鍵の受け渡しの手間を省き、利便性を向上させるため入居率アップも期待できます。
スマートメーターは、電力会社が基本的に無料で設置してくれるため導入コストがかからず、電気・水道の使用状況を可視化できることで、共用部の不正利用や水漏れなどのトラブルを早期に発見し、余計な費用の発生を防止できます。
開閉センサーは、防犯対策としての価値が高く、入居者の安心感を向上させるほか、高齢者の見守り用途にも活用できます。これにより、孤独死のリスクを軽減し、事故物件化による資産価値の低下を防ぐことが可能です。
賃貸経営の競争力を高めるために、まずは手軽なIoT設備から導入を検討するとよいでしょう。
IoT不動産にするための進め方と注意点
IoT設備は種類が多く、やみくもに導入するとコストばかりかかり、思うような効果が得られないこともあります。効果的な導入には、目的を明確にし、収益性を考慮した計画的な進め方が重要です。
ここでは、賃貸物件のIoT化を成功させるためのステップと、導入時に押さえておくべき注意点を解説します。
どの設備を導入するかを考える
まず、物件の特徴やターゲット層に合ったIoT設備を選定することが大切です。
たとえば、単身者向けの物件なら、スマートロックやスマートリモコンが適しています。鍵を持ち歩かずに済み、外出先からエアコンを操作できるため、利便性が高まります。
一方、ファミリー向けなら、ネットワークカメラやスマート宅配ボックスを導入することで、安全性や生活の快適さを向上させることができます。
導入コストを減らす方法を探す
IoT設備の導入にはコストがかかりますが、補助金や助成金の活用、まとめ買いによる割引、シンプルな機能の機器を選ぶなどの方法で費用を抑えることが可能です。
また、初期費用が不要なサブスクリプション型のサービスを活用するのも一つの手です。さらに、スマートメーターのように電力会社が無料で設置してくれる設備を優先的に導入することで、コストをかけずに物件の利便性を向上させることもできます。
入居者へ通知・工事日程を調整する
IoT設備の設置には、入居者への事前通知と工事日程の調整が必要です。
すでに入居中の物件にスマートロックを導入する場合、「利便性向上のためのアップグレード」として事前に説明し、理解を得ることが大切です。スマートメーターやネットワークカメラの設置には、一時的に電源を切る必要がある場合もあるため、入居者のスケジュールを考慮したうえで工事日程を決めるようにしましょう。
空室募集時にPRする
IoT設備は、物件の付加価値を高めるため、空室募集の際に積極的にアピールすることが大切です。
「スマートロック完備!鍵を持ち歩かなくてもスマホで開閉可能」」「スマート宅配ボックス搭載!荷物の到着をスマホに通知&遠隔解錠で再配達不要!」といった具体的なメリットを記載することで、IoT設備の魅力を伝えやすくなります。
まとめ
この記事では、賃貸物件におけるIoT設備の導入方法やメリット、具体的な設備の選び方、導入時の注意点について解説しました。
IoT技術を活用することで、賃貸経営の効率化や入居者の満足度向上が期待できます。スマートロックやスマートリモコン、ネットワークカメラなどの導入により、物件の魅力を高め、空室対策や管理負担の軽減が可能です。
また、初期費用や維持費が少ない設備を選べば、コストを抑えつつ物件の価値を向上できます。導入時はターゲット層に適した設備を選び、入居者への周知や空室募集時のPRを工夫しましょう。
IoT不動産の需要は今後も拡大が見込まれるため、競合物件に埋もれないためには、オーナー自身が意識を高め、最新の設備や市場動向にアンテナを張り、入居者のニーズに応じた適切な投資を行うことが重要です。
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