
「孫に不動産を贈与して相続税対策をしたい」
以前より、弊社でもこのような相談を受けることがあります。
しかし、贈与税についての仕組みをしっかり理解せずに進めると、節税どころか逆に税負担が増えてしまうかもしれません。
本記事では、孫への不動産贈与の仕組みから、メリット・リスク・注意点まで、制度の根拠とともにわかりやすく解説します。
生前に不動産の贈与を検討している方は、制度の仕組みを理解したうえで進めることが大切です。ご不安な方は、ぜひ弊社スタッフまでご相談ください。
| この記事で分かること |
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目次
- そもそも「孫への不動産贈与」とは?
- 不動産贈与の基本【贈与税と相続税の違い】
- なぜ「子」ではなく「孫」に贈与するのか
- 不動産贈与の方法と手続きの流れ
- 孫に不動産を贈与するメリット4選
- 相続税を抑えられる可能性がある
- 財産の承継を早められる
- 家族間の遺産分割トラブルを防げる
- アパート贈与で資産運用を早めに引き継げる
- 孫に不動産を贈与するデメリット・リスク4選
- 贈与税の負担が重くなる可能性がある
- 「相続時精算課税制度」を選ぶと損をするケースもある
- 不動産の名義変更や評価額算出に手間がかかる
- 他の相続人との不公平が生じるおそれがある
- 孫への贈与で活用できる主な非課税制度
- 相続時精算課税制度
- 教育資金の一括贈与の特例
- 結婚・子育て資金の一括贈与の特例
- 住宅取得資金の贈与の特例
- 不動産贈与前に必ず確認したい3つのポイント
- 不動産の評価額を正確に把握する
- 贈与契約書・登記手続きは慎重に進める
- 贈与後の固定資産税・維持費も考慮する
- 孫への不動産贈与で失敗しないためのまとめ
そもそも「孫への不動産贈与」とは?
「自分が元気なうちに、孫に土地や家を渡しておきたい」
そんな思いから、生きているうちに不動産の贈与を検討される方がいます。
孫への不動産贈与とは、祖父母が持つ土地や建物を「無償」で孫に譲ること。実際に行う前には、税金や手続きのルールの基本をしっかり押さえておきましょう。
不動産贈与の基本【贈与税と相続税の違い】
贈与とは、生前、つまり生きている間に無償で財産を譲り渡すことをいいます。
そのうえで、1年間(1月1日~12月31日)にもらった財産の合計額が110万円を超えると課税対象となります。(暦年課税)この110万円は「基礎控除」と呼ばれ、毎年リセットされるため、計画的に少しずつ贈与することで税負担を抑えることも可能です。
一方、相続は、亡くなった人の財産を家族(相続人)が自動的に受け継ぐことです。相続税では、被相続人が残した財産の合計額から基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)を差し引いた残りの金額に対して課税されます。
比較項目 | 贈与税 | 相続税 |
課税のタイミング | 生前に財産を譲るとき | 死亡後に財産を引き継ぐとき |
納税者 | 財産をもらう人(受贈者) | 財産を受け継ぐ人(相続人) |
基礎控除 | 年間110万円 | 3,000万円+600万円×法定相続人 |
課税対象 | その年に贈与された財産の合計 | 被相続人が残した遺産の総額 |
税率の傾向 | 相続税より高め | 贈与税より低め |
評価方法 | 贈与時点の時価・評価額で課税 | 相続時点の時価・評価額で課税 |
表のとおり、贈与と相続では課税の考え方がまったく違います。
相続税は、亡くなった人が残した財産の合計額に対して一度に課税されるため、資産の規模が大きいほど税負担も大きくなりやすいという特徴があります。
なぜ「子」ではなく「孫」に贈与するのか
子どもを経由せずに、祖父母から孫へ直接財産を贈与するのには、次のようなケースがあります。
- 子がすでに経済的に自立している
- 孫の教育費を提供したい
- 孫の結婚資金や住宅取得を支援したい
ただし、注意したいのは、孫への直接贈与には税務上のデメリットが生じる場合があるという点です。たとえば、孫が相続人でない場合は、贈与税の対象になります。
また、祖父母の相続発生時に、贈与した財産が「相続開始前3年以内の贈与」に該当すると、その財産が相続財産に加算され、結果的に相続税の課税対象にもなるケースがあります。
被相続人の相続開始日 | 加算対象期間 |
~令和8年12月31日 | 相続開始前3年以内 |
令和9年1月1日~令和12年12月31日 | 令和6年1月1日から死亡の日までの間 |
令和13年1月1日~ | 相続開始前7年以内 |
(出典:国税庁HP「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」)
贈与の時期や対象によっては相続税への加算対象となるため、税理士などの専門家へ相談のうえで判断することをおすすめします。
不動産贈与の方法と手続きの流れ
不動産を贈与する際は、現金のように「渡したら終わり」ではありません。契約書の作成から名義変更、税務申告まで、いくつかの正式な手続きを経てはじめて法的に有効になります。
ここでは、不動産贈与の一般的な流れを3つのステップで見ていきましょう。
① 贈与契約書を作成する
まずは「贈与の事実」を明確に残すために贈与契約書を作成します。
この過程は、血縁関係のある孫であっても行います。贈与は口頭でも成立しますが、後々のトラブル防止や税務署への証明のために、書面で作成するのが原則です。
契約書には以下の内容を明記します。
- 贈与契約書を締結する旨
- 贈与する不動産の概要
(所在地、地番、地目、地積、家屋番号、種類、床面積など) - 贈与日(契約成立日)
- 贈与者(渡す人)と受贈者(もらう人)の氏名・住所
- 双方の署名・押印
また、所有権移転にかかる費用をどちらが負担するのか、登記が完了した時点をもって贈与が成立するといった取り決めがある場合には、契約書にあわせて記載しておくと安心です。
このような取り決めを書面で明確にしておくことで、後の誤解やトラブルを防ぐことができます。
なお、「契約書」と聞くと、売買契約のように分厚い書類を想像するかもしれませんが、不動産の贈与契約書は、内容がきちんと記載されていればA4用紙1枚程度でも問題ありません。
要点を整理し、必要事項を過不足なく書き込むことが大切です。
作成した契約書には売買契約書と同様に印紙税が課されます。内容に応じた金額の印紙を貼付して捺印し、控えを双方で保管しておきましょう。
② 登記手続きで名義を変更する
次に、不動産の所有権を孫(受贈者)に移す登記を行います。
登記は法務局で行い、以下の書類が必要です。
贈与をする側 | 贈与を受ける側 |
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名義変更が完了すると、法的に不動産の所有者が孫へ移転したことになります。書類に不備があると受理されないこともあるため、司法書士へ依頼するとスムーズです。
③ 贈与税の申告を行う
所有権の移転登記が完了したら、受贈者(孫)が贈与税の申告を行います。
申告は、翌年の2月16日から3月15日までの確定申告期間中に、受贈者(孫)の住所地を管轄する税務署で行うのが基本です。
贈与税の申告書は税務署で入手できるほか、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」からオンラインで作成・提出することも可能です。
必要書類を揃えたうえで、期間内に申告を行いましょう。贈与税の申告にあたって提出する主な書類は、次のとおりです。
- 贈与税申告書
- 不動産の評価証明書(固定資産税評価証明書など)
- 登記簿謄本
- 贈与契約書の写し
「非課税だと思っていた」と申告を怠ると、追徴課税や延滞税の対象になるおそれがあるので注意しましょう。
生前に不動産の贈与を検討している方は、制度の仕組みを理解したうえで進めることが大切です。ご不安な方は、ぜひ弊社スタッフまでご相談ください。
孫に不動産を贈与するメリット4選
孫への不動産贈与には、単なる「資産移転」にとどまらない多くのメリットがあります。
相続税対策としてだけでなく、家族関係や将来の生活支援など、さまざまな観点でプラスに働くことがあります。主な4つのメリットを紹介します。
相続税を抑えられる可能性がある
不動産を生前に贈与することで、将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽くできる可能性があります。
特にアパートなどの賃貸不動産は、入居者がいる分だけ自由に使えないため、「貸家建付地(かしやたてつけち)」として自用地より2〜3割ほど低く評価されます。「相続時精算課税制度」を利用すれば、最大2,500万円までの贈与が非課税となり、同じ評価額でも相続より税負担を抑えられるケースがあります。
項目 | 【相続】アパートを相続した場合 | 【生前贈与】相続時精算課税制度を利用した場合 |
評価額(貸家建付地) | 6,000万円 | 6,000万円 |
課税対象 | 遺産総額に6,000万円を加算して相続税を計算 | 6,000万円のうち2,500万円は非課税、残り3,500万円が贈与税対象 |
控除・特例 | 相続税の基礎控除 | 相続時精算課税の非課税枠 |
地価変動の影響 | 相続時に地価上昇があると課税額も上昇 | 贈与時点の評価で固定されるため上昇の影響を受けない |
家賃収入 | 相続後に相続人が引き継ぐ | 贈与後に孫へ移転(所得分散効果) |
結果 | 控除後でも相続税の負担が大きくなりやすい | 評価額が同じでも非課税枠+評価固定で節税効果がある |
財産の承継を早められる
教育費・結婚資金・住宅取得など、孫世代の人生の早い段階で必要になる資金を支援できるのも生前贈与の大きな魅力です。
特例制度を活用すれば、贈与税を抑えながらスムーズに資産を移すことができます。
たとえば、以下の特例があります。(詳しくは後述)
- 教育資金の一括贈与特例:1,500万円まで非課税
- 結婚・子育て資金の一括贈与特例:1,000万円まで非課税
- 住宅取得資金の贈与特例:1,000万円まで非課税
これらをうまく活用すれば、節税効果に加えて「孫の自立や将来への応援」として、資産を生きた形で活かすことができます。
家族間の遺産分割トラブルを防げる
生前贈与を行うことで、「誰に何を渡すか」を自分の意思で明確にできるのも大きなメリットです。
贈与契約書や登記で正式に残しておけば、相続時に「この不動産は誰のものか」といった争いを防ぐことができます。
また、判断力がしっかりしているうちに進めておくことで、家族と話しづらいお金の話も早めに整理でき、結果的に終活の一環にもなります。
遺言書と併用して他の財産の分け方を明確にすれば、全体のバランスを取りながら、円満な資産承継を実現できるでしょう。
アパート贈与で資産運用を早めに引き継げる
アパートを生前に贈与することで、資産運用の主導権を早めに次世代へ移せるのも大きなメリットです。孫世代が早い段階から資産運用や管理を学び、 実践的な経験を積むことができます。
また、贈与後の家賃収入は受贈者(孫)の所得として扱われるため、家族全体で見ると所得分散による税負担の平準化にもつながります。判断力があるうちに承継しておけば、修繕・リフォーム・再投資などの判断を若い世代が主導できる点も魅力です。
生前贈与が有利になるのは、次のようなケースです。
- 今後、地価が上がる可能性があるエリア(都市部・再開発地域など)
- 相続財産の総額が、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)を超える見込みがある
- 賃貸アパートを持っており、貸家建付地評価で評価減を受けられる
- 子や孫に早めに家賃収入を移して、所得分散をしたい
孫に不動産を贈与するデメリット・リスク4選
孫への不動産贈与は節税や承継の面で魅力がありますが、注意点もあります。
ここでは、事前に知っておきたい4つのリスクを紹介します。
贈与税の負担が重くなる可能性がある
贈与税は、相続税よりも税率が高めに設定されている点に注意が必要です。
年間110万円を超える贈与には課税されるため、評価額が大きい不動産をそのまま贈与すると、多額の税負担が発生するケースがあります。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
(出典:国税庁HP「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
制度の活用や分割贈与など、計画的な贈与設計が求められます。
「相続時精算課税制度」を選ぶと損をするケースもある
贈与税の節税方法には、主に「暦年課税」と「相続時精算課税制度」の2種類があります。
暦年課税は、毎年110万円までの贈与が非課税になる仕組みで、少しずつ贈与を行いたい場合に向いています。
一方、相続時精算課税制度は、最大2,500万円までを非課税で一括贈与できる制度です。
ただし、一度この制度を選ぶと暦年課税には戻せません。また、贈与した不動産は将来の相続財産に加算されるため、相続時の税額が増えるケースもあります。
制度を使う前に、どちらがトータルで有利かを必ずシミュレーションしておきましょう。
不動産の名義変更や評価額算出に手間がかかる
不動産を贈与する場合は、登記名義の変更や評価額の算出など、複数の手続きが必要になります。特に、登記費用(登録免許税)や契約書の印紙税、不動産の評価資料を集める作業など、想像以上に手間がかかります。
内容や書類の不備で税務署に指摘されるケースもあるため、自分たちだけで完璧に進めるのは難しいでしょう。
他の相続人との不公平が生じるおそれがある
孫だけに不動産を贈与すると、他の相続人とのバランスが崩れることがあります。相続時に「生前贈与分を含めて計算し直す(特別受益)」対象になる場合もあります。
将来的な家族間のトラブルを防ぐためにも、贈与を行う際は、家族全体で話し合い、合意形成を図ることが重要です。
生前に不動産の贈与を検討している方は、制度の仕組みを理解したうえで進めることが大切です。ご不安な方は、ぜひ弊社スタッフまでご相談ください。
孫への贈与で活用できる主な非課税制度
孫への贈与と一口にいっても、その目的によって活用できる制度は異なります。
ここでは、贈与税の負担を軽くしながら資産を移せる代表的な4つの制度を紹介します。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫への贈与に適用できる制度です。最大2,500万円までの贈与が非課税となり、贈与時の税負担を大きく軽減できます。
ただし、この制度を使って贈与した財産は、将来の相続の際に相続財産に加算され、相続税の対象となる点に注意が必要です。
また、一度この制度を選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に戻ることができません。
【参考:国税庁HP「No.4103 相続時精算課税の選択」)】
教育資金の一括贈与の特例
教育資金の一括贈与の特例は、30歳未満の孫などに対して、教育資金を一括で贈与する際に活用できる制度です。金融機関に専用口座を開設し、最大1,500万円まで(学校等以外への支払いは500万円まで)の贈与が非課税となります。
対象となる教育資金には、学校の入学金や授業料のほか、学習塾や習い事の費用なども含まれます。受贈者が30歳に達した時点で使い残しがある場合、原則として残額に対して贈与税が課税されます。
【参考:国税庁HP「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」)】
結婚・子育て資金の一括贈与の特例
結婚・子育て資金の一括贈与の特例は、18歳以上50歳未満の孫などに対して、結婚や子育てに関する資金を一括贈与する際に利用できる制度です。
金融機関の専用口座を通じて、最大1,000万円まで(結婚資金は300万円まで)の贈与が非課税になります。
【対象となる費用】
- 結婚式の費用
- 新居の家賃
- 引越費用
- 出産費用
- 保育料など
受贈者が50歳に達した時点での残額には贈与税が課税されます。
【参考:国税庁HP「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」)】
住宅取得資金の贈与の特例
この特例は、孫がマイホームを購入したり、新築・増改築したりする際に、祖父母から資金援助を受ける場合に使える制度です。住宅取得のための資金であれば、一定の金額まで贈与税がかかりません。
非課税になる金額は、購入する住宅が省エネ住宅かどうか、また契約した時期によって変わってきます。制度を利用するには、贈与を受ける孫が18歳以上であることや、年収が一定額以下であることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。
【参考:国税庁HP「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」)】
生前に不動産の贈与を検討している方は、制度の仕組みを理解したうえで進めることが大切です。ご不安な方は、ぜひ弊社スタッフまでご相談ください。
不動産贈与前に必ず確認したい3つのポイント
不動産の贈与は、一度実行してしまうと元に戻すことができません。税金の負担も大きくなりがちなので、贈与前にチェック必須の3つのポイントを見ていきましょう。
不動産の評価額を正確に把握する
不動産をいくらと評価するかで、税額が大きく変わってきます。
固定資産税評価額や路線価をもとに計算しますが、間違えると予想外の税負担が発生してしまうことも。贈与の前には、必ず評価額を確認しましょう。
贈与契約書・登記手続きは慎重に進める
贈与契約書や登記の手続きは、書類に不備があると無効になってしまう可能性があります。
契約書の記載漏れや印紙の貼り忘れといったミスにも気をつけたいところです。手続きに不安がある方は、司法書士や税理士に相談しながら進めると確実です。
贈与後の固定資産税・維持費も考慮する
贈与が完了すれば、固定資産税や修繕費といった維持コストは孫が負担することになります。これらの支払いが難しくなると、せっかくもらった不動産が逆に負担になってしまうケースもあります。
贈与を決める前に、孫が将来にわたって維持できるかどうかも含めて検討しておきましょう。
孫への不動産贈与で失敗しないためのまとめ
孫への不動産贈与は、節税効果や円満な資産承継につながる有効な方法です。
しかし、贈与税や相続税の仕組みを正しく理解しないまま進めると、思わぬ税負担や家族間のトラブルを招くおそれもあります。
不動産の評価や贈与契約、登記・申告など、それぞれのステップに専門的な知識が必要になるため、判断に迷ったときは税理士や司法書士などの専門家へ早めに相談することが大切です。
また、贈与は「節税のため」だけでなく、孫の将来を支えたいという想いを形にする行為でもあります。
制度を正しく活用しながら、家族全体が納得できる形で資産を受け継いでいきましょう。
生前に不動産の贈与を検討している方は、制度の仕組みを理解したうえで進めることが大切です。ご不安な方は、ぜひ弊社スタッフまでご相談ください。











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