
ローンの返済が厳しくなり、物件を手放す選択肢を考えている方の多くが、「競売と任意売却、どちらが良いのか分からない」と悩みます。
競売とは、ローンの滞納により金融機関が裁判所に申し立てを行い、不動産を強制的に売却する方法です。一方、任意売却は、金融機関の同意を得たうえで市場価格に近い価格で売却できる手続きです。
本記事では、それぞれの違いやメリット・デメリットや、悩んでいる方にとってどちらが選択肢として有効なのかを解説します。
自身が置かれている状況に置き換えながら、今後のアクションを決める参考にしてみてください。
この記事で分かること |
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目次
- 競売と任意売却の違いを比較
- 競売・任意売却とは?それぞれの定義・手順を解説
- 競売とは
- 任意売却とは
- 競売と任意売却の11個の違い
- 1.強制力
- 2.売却価格
- 3.残債額
- 4.残債の返還方法
- 5.販売期間
- 6.購入者の選定
- 7.専門家のアドバイスの有無
- 8.プライバシー
- 9.退去日
- 10.引っ越し費用の負担
- 11.居住を継続できる可能性
- 競売と任意売却のメリット・デメリット
- 任意売却のメリット・デメリット
- 競売のメリット・デメリット
- 任意売却は必ずできるとは限らない
- 1. 債権者(金融機関)の同意が必要
- 2. 売却価格の調整が難しい場合がある
- 3. 期限内に売却できないと競売になる
- 4. 債権者の数が多いと調整が難しくなる
- 競売物件の公告方法
- 1. 裁判所の掲示板やウェブサイトで確認
- 2. 官報に掲載される
- 3. 競売情報を扱う民間サイト
- 4. 競売に詳しい不動産会社からの情報
- まとめ
競売と任意売却の違いを比較
不動産を手放す際、競売よりも任意売却の方が売り手にとって圧倒的に有利です。その最大の理由は、「売却価格の差」です。競売は市場価格よりも大幅に安く落札される傾向があり、売却後も多くの債務が残る可能性が高くなります。
一方、任意売却であれば市場に近い価格で売却でき、残債を減らしやすくなります。また、競売では強制的に退去を求められる一方、任意売却では引っ越し時期や費用について債権者と交渉が可能です。
さらに、競売は裁判所の公告で情報が公開されるため、プライバシーの面でも不安が残ります。その点、任意売却は一般の不動産取引に近いため、周囲に知られずに不動産の売却を進めやすくなります。
総合的に判断すると、ローン返済できなくなった所有者にとって「任意売却」の方が柔軟な選択が出来るでしょう。
競売・任意売却とは?それぞれの定義・手順を解説
この章では、競売と任意売却の定義・手順を解説します。
- 競売とは
- 任意売却とは
定義を理解することで、それぞれの違いが理解できます。
競売とは
競売とは、住宅ローンの滞納が続いた場合に、債権者(金融機関)が裁判所に申し立てを行い、不動産を強制的に売却する手続きです。
売り手の意思に関係なく進められ、物件はオークション形式で落札されます。
競売の手順
- ローン滞納
- 競売の申し立て
- 入札・落札
- 売却・引き渡し
まず、金融機関が裁判所に申し立てを行い、裁判所が売却を決定します。その後、物件の情報が公告されたら入札のスタートです。
最も高い金額を提示した落札者が所有権を取得し、元の所有者は退去を求められます。競売は市場価格より安く売却される傾向があり、プライバシー面でも不利なため、可能であれば回避したい手段です。
任意売却とは
任意売却とは、住宅ローンの返済が難しくなった場合に、債権者(金融機関)の同意を得て、市場価格に近い価格で不動産を売却する方法です。
通常の不動産売却と似た流れで進められるため、競売よりも有利な条件で売却できる可能性があります。
任意売却の手順
- 金融機関に相談
- 不動産会社と売却活動
- 買主の決定・交渉
- 売却・引っ越し
まず、売り手が金融機関に相談し、任意売却の許可を得ます。その後、不動産会社とともに市場価格に近い価格で販売活動を行い、買主を探します。
購入希望者が現れると、金融機関と売却価格や残債の処理について交渉を行い、合意が得られれば売買契約を締結。
売却後は、債権者との合意内容に基づいて残債の返済を進め、新生活をスタートさせます。
任意売却は、競売より高値で売れる可能性があり、プライバシーも守られやすいため、債務整理の選択肢として有力です。
競売と任意売却の11個の違い
競売と任意売却の違いとして、主に下記の11点が挙げられます。
- 強制力
- 売却価格
- 残債額
- 残債の返還方法
- 販売期間
- 購入者の選定
- 専門家のアドバイスの有無
- プライバシー
- 退去日
- 引っ越し費用の負担
- 居住を継続できる可能性
競売と任意売却は、どちらもローン返済が難しくなった際の解決策ですが、それぞれに異なる特徴があります。本章では、それぞれの違いについて詳しく解説します。
1.強制力
競売は裁判所の手続きに基づいて強制的に進められ、所有者の意思に関係なく売却が行われます。申し立てが受理されると、売り手が拒否しても手続きは止められません。
最終的に落札者が決まると、所有権が移転し、強制退去を求められることになります。
一方、任意売却は売り手の意思を尊重しながら進められ、債権者(金融機関)の同意を得た上で市場で売却されます。売却のタイミングや条件についてもある程度交渉できるため、競売より柔軟な対応が可能です。
2.売却価格
競売は市場価格よりも大幅に安く売却されるケースが多く、一般的に市場価格の5~7割程度で落札されるといわれています。そのため、売却後も多くの残債が残るリスクが高くなります。
一方、任意売却は一般市場での売却となるため、市場価格に近い価格で売却できる可能性があるのが利点です。競売よりも高額で売却できることが多く、結果として残債を減らしやすくなります。
売り手にとっては、より有利な条件で売却できる手段です。
3.残債額
競売は売却価格が低くなりやすいため、売却後も多額の残債が残る可能性が高くなります。さらに、競売では売却代金がそのまま債権者に配分されるため、売り手が残債の返済方法について交渉する余地はほとんどありません。
任意売却の場合、競売よりも高い価格で売却できる可能性があるため、残債を少なくできることがメリットです。
また、売却後の返済計画について債権者と交渉できるため、支払いの負担を軽減できる可能性があります。
4.残債の返還方法
競売では、売却代金がそのまま債権者へ支払われ、残った残債については一括請求されることが一般的です。そのため、支払いが困難な場合には、自己破産を検討せざるを得ないケースもあります。
一方、任意売却では売却価格や債権者との交渉によって、残債の分割払いなど柔軟な返済方法を提案できる可能性があります。収入状況に応じた返済計画を立てられるため、無理なく債務整理を進められる点が大きなメリットです。
5.販売期間
競売は裁判所のスケジュールに従って進められます。実際の入札期間そのものは1週間程度と短く、申し立てから落札・引き渡しまで約6~12か月前後かかるのが一般的です。
一方、任意売却は売り手が主体となり販売活動を行うため、通常3~6か月程度の期間で売却を進められます。ただし、最長でも9ヵ月程度が限度です。売却が長期化すると、売り出し活動中に「競売開始決定通知」が届き、裁判所の執行官により物件の現況調査が行われます。
任意売却は、住宅ローンを滞納し始めてから10ヶ月目以降は開始できないケースがほとんどで競売が決定します。
6.購入者の選定
競売では裁判所のルールに従い、最も高い金額を入札した人が落札者となるため、売り手は購入者を選ぶことができません。落札者が投資目的の法人や個人である場合も多く、売却後の対応が厳しくなることがあります。
任意売却の場合は、一般的な不動産取引と同様に、売り手が購入希望者を選定できます。売却条件についても交渉可能で、価格や引っ越し時期などの調整がしやすい点がメリットです。
7.専門家のアドバイスの有無
競売では、裁判所が手続きを進めるため、不動産会社や弁護士などの専門家のアドバイスを受ける機会が限られます。自分で情報を集める必要があり、専門知識がないと不利な状況に陥ることもあるでしょう。
任意売却では、不動産会社や弁護士、金融機関の担当者と相談しながら進めることができます。売却価格や残債処理の面で、経験豊富な専門家のサポートを受けられることは大きなメリットです。
8.プライバシー
競売では、裁判所の公告により物件情報が公開されるため、近隣住民や知人に知られるリスクがあります。物件の内覧も一般に公開されるため、精神的な負担が大きくなりがちです。
任意売却は通常の不動産売買と同じように進められるため、周囲に知られずに売却を進められます。物件情報が広告に掲載されても、任意売却であることが明記されることありません。
競売と比較して、プライバシーが守られやすい点がメリットです。
9.退去日
競売の場合、落札後に所有権が移転し、新しい所有者から退去を求められます。期限までに退去しない場合は、強制執行により立ち退きを命じられることもあります。
いずれにしても最終的には退去しなくてはならないので、競売が開始されたら早めに対策を取る必要があります。
任意売却では、売り手と買主、金融機関との間で退去時期の調整が可能です。余裕を持って引っ越し準備ができるため、新生活への負担を軽減できます。
10.引っ越し費用の負担
競売では、売却代金はすべて債権者に充当されるため、売り手に引っ越し費用が支払われることは基本的にありません。自己資金で引っ越し費用を用意する必要があります。
任意売却では、債権者との交渉次第で引っ越し費用を売却代金の一部から捻出できる可能性があります。金額には限度がありますが、一定の費用を確保できることで、新生活の負担を軽減できるでしょう。
11.居住を継続できる可能性
競売では、落札者が所有権を取得すると、基本的に元の所有者は退去を求められます。落札者によっては、立ち退きを強く要求されることもあるので注意が必要です。
任意売却では、売却先を選べるため、買主と交渉次第ではリースバックを利用できる可能性があります。リースバックとは、売却後に賃貸契約を結び、そのまま住み続ける方法のことです。
このように、家を手放さずに済むケースもあるため、柔軟な対応が可能です。
競売と任意売却のメリット・デメリット
任意売却・競売のどちらを選ぶかを判断する際は、それぞれのメリット・デメリットを把握することが大切です。
上記の11個の違いを基に、以下で任意売却と競売のメリット・デメリットをまとめました。
任意売却のメリット・デメリット
項目 | 任意売却のメリット | 任意売却のデメリット |
売却価格 | 市場価格に近い価格で売却可能 | 売却期限があり、早期の対応が必要 |
強制力 | 売主の意思を尊重しながら進められる | 債権者(金融機関)の同意が必要 |
プライバシー | 通常の売却と同じため、周囲に知られにくい | 連帯保証人の同意が必要 |
退去時期の調整 | 買主や金融機関と交渉できる | 販売活動を行うための手間がかかる |
残債の処理 | 債権者と交渉し、柔軟な返済方法が可能 | 売却価格や残債処理について交渉が必要 |
引っ越し費用の負担 | 交渉次第で一部費用を確保できる | 必ずしも引っ越し費用を確保できるわけではない |
手続きの手間 | 通常の売却と似た流れで進められる | 売却活動に時間と労力がかかる |
時間的猶予 | 競売よりも短期間で手続きを終えられる | 競売と比べて早めの対応が求められる |
専門家のサポート | 不動産会社や弁護士と相談しながら進められる | 専門家のサポート費用が発生する場合がある |
競売のメリット・デメリット
項目 | 競売のメリット | 競売のデメリット |
売却価格 | 手続きを自分で進める必要がない | 裁判所の手続きに従うため、専門知識がなくても進められる |
強制力 | 裁判所が進めるため、手続きを任せられる | 裁判所が強制的に進めるため、所有者の意思は反映されない |
プライバシー | 手続きが決まっているため、売却準備が不要 | 公告により情報が公開されるため、周囲に知られる可能性が高い |
退去時期の調整 | 裁判所のスケジュールにより時間的猶予が生まれる | 売却後は強制退去となる可能性が高い |
残債の処理 | 売却後の残債が明確になりやすい | 売却価格が低いため、残債が多く残る可能性がある |
引っ越し費用の負担 | 債権者がすべて管理するため、交渉の手間が不要 | 引っ越し費用は自己負担となる |
手続きの手間 | 買主との交渉をしなくてもよい | すべての手続きが裁判所主導で進むため、調整が難しい |
時間的猶予 | 落札まで半年~1年かかるため、その間住み続けられる | 競売が決まると選択肢がなくなる |
専門家のサポート | 裁判所の手続きに従うため、専門知識がなくても進められる | 専門家のアドバイスを受ける機会が少ない |
任意売却は必ずできるとは限らない
任意売却は、競売を避けて不動産を売却する方法のひとつですが、必ずしも実行できるとは限りません。金融機関の同意や売却条件など、いくつかのハードルがあり、すべてのケースで成功するわけではないのです。
1. 債権者(金融機関)の同意が必要
任意売却をするには、ローンを貸し付けている金融機関(債権者)の同意が不可欠です。売却額がローン残債を下回る場合、銀行側の損失になるため、簡単には承諾されないこともあります。売却額とローン残債の差額分をどのようにして支払うのか、債権者との話し合いや調整が必要です。
また、債権者がすでに競売手続きに進んでいる場合、任意売却に切り替えられないケースもあります。
2. 売却価格の調整が難しい場合がある
市場価格よりも大幅に安く売らないといけないケースでは、買い手がつかず、結果的に任意売却が成立しないこともあります。特に、ローンの残債が大きすぎる場合、債権者が「この価格では認められない」と判断し、売却が進まないことがあります。
3. 期限内に売却できないと競売になる
任意売却には期限があります。滞納が続くと競売手続きが進行し、一定の期間内に売却ができなければ、最終的に競売に移行します。
競売になると市場価格よりも大幅に低い価格で売却される可能性が高く、物件の所有者にとって不利な結果となることが多いです。
4. 債権者の数が多いと調整が難しくなる
住宅ローン以外にも、税金の滞納やカードローンの借金がある場合、複数の債権者と交渉する必要があります。各債権者の同意を得るのが難しく、調整がつかない場合は任意売却が成立しないこともあります。
このように、任意売却は状況によっては成功しないこともあるため、早めに専門家に相談し、できるだけ有利な条件で進められるよう準備することが大切です。
競売物件の公告方法
通常の物件は不動産ポータルサイトなどを通して市場に出回りますが、競売物件は特定の方法で公示されます。
競売物件の情報を知るためには、どこで確認できるのかを把握しておくことが大切です。
1. 裁判所の掲示板やウェブサイトで確認
競売物件の情報は、各地の裁判所の掲示板や公式ウェブサイトで公示されます。特に、裁判所が運営する「BIT(不動産競売物件情報サイト)」では、全国の競売物件を検索することが可能です。
物件の所在地や入札のスケジュール、売却基準価格など、詳細な情報を無料で確認でき、最も信頼性の高いサイトだといえます。競売物件の購入に興味がある人は、一度チェックしてみるとよいでしょう。
【参考:競売物件検索 | BIT 不動産競売物件情報サイト】
2. 官報に掲載される
競売の公告は、国が発行する「官報」にも掲載されます。ただし、官報は法律文書のような形式で書かれているため、内容を理解するのが難しい場合もあります。
見慣れていない人にとっては少しハードルが高いですが、競売情報が公式に発表される場の一つです。
3. 競売情報を扱う民間サイト
裁判所の公示だけでなく、不動産競売を専門に扱うウェブサイトでも情報を得ることができます。これらのサイトでは、裁判所の情報を整理し、写真やマップなどを使って見やすく掲載していることが多いため、初心者にもわかりやすいでしょう。
賃貸需要や物件のランク付けしているサイトもあるので、投資家にもおすすめできます。
4. 競売に詳しい不動産会社からの情報
競売物件を専門に扱う不動産会社もあり、直接問い合わせることで情報を得ることができます。競売の手続きに関するアドバイスや入札のサポートを行っているため、自分で調べるのが難しいと感じる場合は相談するのも一つの方法です。
ただし、競売物件を扱う不動産会社は世の中に数多くあるわけではなく、本当に専門的な知識と実績を持っている会社はごく一部に限られます。競売は通常の不動産取引とは異なり、法律や手続きが複雑であり、落札後の占有者対応や残債処理など、専門的な対応が求められます。そのため、競売に関する経験や実績の少ない不動産会社が簡単に手を出せるものではありません。
安心して取引を進めるためにも、競売専門の不動産会社や、過去の競売取引実績が豊富な会社を選ぶことが重要です。
まとめ
この記事では、住宅ローンの返済が難しくなった際の選択肢として、「競売」と「任意売却」の違いについて解説しました。
競売と任意売却は、住宅を手放す際の2つの方法です。
任意売却は、市場価格に近い価格で売却できる可能性が高く、プライバシーを守りながら進められる点が大きなメリットです。また、売却後の残債についても債権者と交渉できるため、柔軟な返済計画を立てやすく、引っ越し時期や費用についても調整しやすい特徴があります。
一方、競売は裁判所の手続きに従って進められるため、売主の意思が反映されにくく、売却価格も市場価格より大幅に低くなりやすいというデメリットがあります。さらに、競売情報が公告されることで周囲に知られるリスクがあり、強制退去を求められる可能性も高くなります。
そのため、可能な限り競売を避け、任意売却を検討することが望ましいといえます。特に、早めに金融機関や専門家へ相談し、適切な売却方法を選ぶことで、より有利な条件で不動産を手放すことができます。
任意売却を成功させるためには、適切なタイミングで行動することが重要です。競売の手続きが進む前に、自身の状況に合った最善の方法を見極めましょう。
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