賃料減額ガイドラインとは|守るべき理由と穏便に解決する方法

あなたは今、入居者から急な問い合わせで、「設備が故障したから賃料減額ガイドラインに基づいて家賃を減額してほしい」と言われ、

「賃料減額ガイドラインって何?」
「対応しないと法令違反になるの?」
「対応しなければいけない場合、家賃はどれくらい下げなきゃいけないの?」

といったように、不安と焦りでいっぱいになっているのではないでしょうか。

賃料減額ガイドラインとは、入居者が原因でない貸室・設備などの不具合や故障によって通常の居住ができなくなった場合に、賃料を減額する際の目安を示したものです。2020年4月の民法改正に対応すべく、日本賃貸住宅管理協会によって作成されました。

結論から言うと、入居者に過失がなく、明らかに入居者が生活を送るのが困難な状況の場合は、賃料減額ガイドラインを参考にして、家賃の減額に対応した方がよいでしょう。

入居者と大家の双方が話し合いで合意することで、賃料減額の取り決めを決定しますが、その折り合いをつける基準として、賃料減額ガイドラインが活用されているのです。

なお、賃料減額に対して適切な対応をしないと、法令違反となるだけでなく、以下のようなリスクがあります。

  • 入居者から過払賃料の返還請求をされる
  • 賃貸借契約解除の申し出がなされる

このようなことが起こると、健全な賃貸経営が難しくなるでしょう。

しかし、すべての設備トラブルが賃料減額の対象となるわけではありません

先ほどもお伝えしたとおり、賃料減額の対象となるのは入居者に過失がなく、通常の生活を送るのが困難な状況になった場合であり、対象になる場合、ならない場合には以下のような違いがあります。

減額対象になる
  • 経年劣化による設備の不具合や故障
  • 自然災害による設備の不具合や故障の場合
減額対象にならない

  • 入居者の過失や管理不足による設備の不具合や故障の場合
  • 生活に支障がないレベルの不具合や故障の場合
  • 電気、ガス、水道の供給元に原因がある場合

家賃減額の申し出があっても、必ずしも減額しなければならないわけではないのです。

そこでこの記事では、賃料減額ガイドラインについて解説するとともに、賃料の減額を求められた大家さんがどのように対応すべきかを解説していきます。

この記事を読み進めることで、起こった不具合や故障に対して家賃を減額すべきか、どのくらいの減額が妥当か判断でき、適切に対処できるようになります

ぜひ最後までチェックしてみてください。

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1. 賃料減額ガイドラインとは

賃料減額ガイドラインとは、貸室・設備などの不具合や故障によって通常の居住ができなくなった場合に、賃料を減額する際の目安です。日本賃貸住宅管理協会が作成したガイドラインで、正式名称を「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」といいます。

まず、賃料減額ガイドラインについて理解するために、賃料減額ガイドラインの内容や作成された背景について見ていきましょう。

1-1. 賃料減額ガイドラインで定められている減額の目安

ガイドラインでは、下記のようにA群・B群に分けて賃料減額割合が定められています。
このガイドラインに照らし合わせて、自分の場合いくらの減額が妥当かを判断していきます。


参考:日本賃貸住宅管理協会「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」

具体的には、まずA群のどれかに該当するか確認します。該当する場合はその状況に合わせて賃料減額割合と免責日数を基準に金額を算出しましょう。

【免責日数とは】

代替物の準備や業務の準備にかかる時間を一般的に算出したもので、賃料減額割合の計算日数に含まない日数のことです。修繕義務を果たそうとしている貸主に対して、借主側が許容すべき日数として、免責日数が設定されています。

A群には該当しない場合はB群に該当するかを確認し、該当する場合はA群と同様、その状況に合わせて賃料減額割合と免責日数を基準に金額を算出します。

たとえば、ガスが6日間使用不能になった場合を想定して計算してみましょう。

【計算例】

  • 状況:ガスが6日間使えなかった
  • 賃料:100,000円/月

100,000円(賃料)×10%(賃料減額割合)×(6日(使用不能期間)-3日(免責日数)÷30日(1か月)=1,000円(減額する賃料)

つまり、上記の例では、100,000円の賃料から1,000円を値引きして、1か月分の賃料を99,000円にするのが妥当だということです。

1-2. 賃料減額ガイドラインが作成された背景

賃料減額ガイドラインが作成された背景として、2020年4月におこなわれた民法の改正があります。

民法第611条は、従来では「貸室・設備などの不具合や故障によって通常の居住ができなくなった場合に、賃料減額を請求できる」とされていました。しかし、現在は民法の改正によって以下のように変更されています。

第六百十一条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される

引用:e-Gov 法令検索「民法」

従来は「減額請求できる」だったものが、「減額される」に変更されています。そのため、貸室や設備などの故障や不具合があり、生活に支障がでている場合は、賃料を減額することが賃貸オーナーの義務になりました。

しかし、民法では賃料減額に関して明確な基準が定められていません

そのため、日本賃貸住宅管理協会が賃料減額の対応を適切におこなえるよう、基準となる賃料減額ガイドラインを作成したのです。

入居者から賃料減額を申し出られた場合、このガイドラインを元に計算すると入居者に金額の根拠を示せるため、納得してもらいやすく話し合いも円滑に進められるでしょう。

ただし、入居者が納得せず訴訟まで発展した場合、裁判では事案ごとに判断されます。そのため、賃料減額ガイドラインは、あくまで当事者間の話し合いの基準として使われていることを覚えておきましょう。


2. 賃料減額を請求されて実際に減額となったのは12.4%

大家として気になるのが「賃料減額を請求されて応じるケースはどのくらいあるのか」ではないでしょうか。

国土交通省の「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」によると、実際に減額となったのは全体の12.4%となっており、あまり多くありません。

出典:国土交通省「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」

このことから、申し出があった場合でも減額に応じなければならないケースは少ないことがわかります。そのため、状況に合わせて判断することが非常に重要であるといえるでしょう。

【どのような不具合の報告が多いのか】

国土交通省の「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」によると、もっとも不具合の報告が多いものは以下の5つです。

参照:国土交通省「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」

入居者から上記のような申し出があった場合は、賃料を減額しなければならない可能性が高いため、即刻対応すべきです。


3. 賃料減額となるケース

 

賃料が減額となるケースは、冒頭でもお伝えしたとおり入居者に過失がない、かつ生活に支障をきたすような場合においてのみ対象となります。

たとえば、以下のようなケースです。

  • 漏水で室内の3分の1が使用不能になった
  • エアコンが作動せず、暑さから室内での生活が難しくなった
  • 雹(ひょう)によって窓が破損し、雨風が吹き込んでしまう

上記のようなケースでは、明らかに入居者が生活を送るのに困難な状況であることがわかります。
また、天災による不具合も入居者に過失がないため賃料減額の対象となります。

ここでは賃料が減額されるケースについて、判例も取り上げながら具体的に解説していきます。

3-1. 天災による賃貸人・賃借人の双方に責任が無い場合も賃料の減額が認められる

台風や大雨による洪水などの天災によって、貸室や設備に不具合や故障が発生した場合、オーナーにも入居者にも責任はありません。

しかし、民法第611条では「賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」とされています。

そのため、天災が原因であっても入居者の生活に支障をきたすようなトラブルがあった場合、オーナーは賃料の減額に応じなくてはならないのです。

たとえば、洪水によって床上浸水してしまい、入居者が一時立ち退かなくてはならなくなった場合、賃貸物件としてまったく機能していないため、その間の家賃は請求できません。

【賃貸契約書に「賃料不減額特約」がある場合でも減額請求される】

「賃料不減額特約」とは、一定の期間は賃料を減額しない旨を記した特約です。しかし、借地借家法第32条第1項には、以下のように定められています。

「契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」

契約の条件にかかわらず、とあるため、賃料の減額をしないことを契約書に記載したとしてもそれは無効になります。そのため、この特約を設けても基本的に意味がないということです。

つまり、ガイドラインに当てはまるような賃料減額の請求があった場合、特約を設けていても請求に応じましょう。

契約終了期間があらかじめ決められている定期借家の場合は、毎月の賃料の値下げはしないという特約が有効です。しかし、居住に影響するような不具合や故障が起きた場合、民法でも通常借家と定期借家は区別されていないため、通常借家と同様に値下げに応じるべきでしょう。

3-2. 実際に賃料減額になった判例

参考として、賃料減額が認められた判例を見てみましょう。

判例1:天井・壁からの雨漏り

状況天井・壁からの雨漏り
事案賃貸人の修繕義務不履行によって賃貸建物の一部が使用収益(※)できなくなり、賃借人が賃料減額を請求
裁判所の判断二階部分の少なくとも3分の2が、原告の修繕義務の不履行によって使用できない状態にあったことが認められ、賃料の25%の減額を認めた。

参考:賃貸借トラブルに係る相談対応研究会 「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」
※使用収益とは:物を直接に利活用して利益・利便を得ること

大家が修繕義務を怠ったことにより、天井や壁から雨漏りが発生し、二階部分の3分の2ほどが使用不能になったケースです。これに対し、裁判所は賃料の25%の減額となりました。

判例2:排水管の閉塞 

状況配水管の閉塞
事案マンションの排水管の閉塞について、賃借人に責任がある場合でも賃貸人において合理的な期間内に修繕すべきであるとして、賃料の三割相当額の支払い拒絶を認めた事案 
裁判所の判断賃貸人は、賃貸建物の使用収益に必要な修繕を行う義務を負うことから、 賃借人の責任で修繕を必要とする状態になった場合でも、合理的な期間内に修繕を行うべきである。期間内に修繕がおこなわれなければ、以後の賃料の支払いを建物の使用収益に支障を生じている限度で拒絶・減額請求できるとし、賃料の30%の減額を認めた。

参考:賃貸借トラブルに係る相談対応研究会 「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」

入居者が原因で配水管が詰ったけれど、大家がすぐに修繕をおこなわなかったケースです。本来であれば賃料を減額しなくてよかったものの、合理的な期間内に修理をおこなわなかったとして、賃料の30%の減額となりました。

判例3:便器からの汚水の漏れなど

状況
  • 台所及び風呂場の換気扇の不具合
  • 備品冷蔵庫の故障
  • 便器の取り付け部からの汚水の漏れ 
事案賃貸人が修繕義務を履行しないことを理由に、賃借人が賃料を減額して支払っていたことに対する賃貸人からの契約解除が否定された事案
裁判所の判断物件の使用収益に及ぼす障害の程度や、そのほかの事情に鑑みると、本件賃貸借契約においては、減額されるべき賃料額は1万円が相当であるとした。

参考:賃貸借トラブルに係る相談対応研究会 「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」

物件内で複数の不具合があったものの大家が修繕をおこなわなかったため、入居者が独断で賃料を減額して支払ったことで大家から契約解除を請求されたケースです。大家が修繕義務を果たしていないことで契約解除は妥当ではないと判断され、賃料から1万円の減額となりました。


4. 賃料が減額とならないケース

貸室や設備に不具合があっても、賃料が減額にならないケースとして、「入居者の過失」があります。

入居者の使用方法や管理によって起きた不具合や故障がある場合は、入居者に責任があるため、家賃を減額する必要はありません

たとえば、以下のようなケースです。

  • 結露を放置してカビが発生した
  • トイレにトイレットペーパー以外を流して水漏れが起きた
  • 窓に物が当たり割れてしまった

また、以下のような生活に支障をきたさない不具合や故障は、賃貸物件の使用収益ができなくなるとはいえないため、家賃を減額しなくても問題ない可能性が高いでしょう。

  • ウォシュレットが壊れた
  • 風呂の追い炊き機能が故障した
  • 浴室乾燥機が機能しない
  • エアコンが作動するものの風向きが変わらない

これらは、トイレや風呂そのものの機能など失われたわけではないため、修繕は必要であるものの家賃の減額は不要であるといえます。

4-1. 電気・ガス・水道は供給元が原因であれば減額の対象にならない

賃料減額ガイドラインのA群では、「電気・ガス・水道」が使えない状態は賃料を減額する必要があるとされています。

しかし、電気・ガス・水道を使えない原因が貸室や設備の不具合を原因とするものである場合です。それぞれの供給元が原因の場合は、賃料を減額しなくても問題ありません

たとえば、物件の電気設備の故障が原因で電気が使えない場合は、賃料減額の対象になりますが、電力会社が原因で長期にわたり停電が起きている場合はオーナーに責任がないため、家賃を減額する必要はないということです。

原因が供給元の不備であれば、賠償責任が発生するため入居者は供給元に対して補償を求めることもできるでしょう。しかし、供給元が原因であっても自然災害や第三者が直接的な原因(クレーン車が倒れて電線が切れたなど)である場合は、賠償責任は発生せず補償してもらうことも難しくなります。

供給元が原因で使用不能になった場合は、原因を供給元に問い合わせて確認し、入居者に賠償請求ができそうかを伝えてあげると親切でしょう。

4-2. 賃料減額にならなかった判例

参考として、賃料減額にならなかった判例を見てみましょう。

判例1:冷暖房の故障など

状況
  • 庭が使えない状態
  • 冷暖房の未作動
  • 電話配線の切断 
事案賃貸人からの建物明渡及び未払賃料支払請求に対し、賃借人が賃料減額を主張
裁判所の判断ルームエアコンや電話工事の費用は、いずれも被告が物件を賃借した後に生じた軽微な修繕費用であって、借主である被告が負担すべきものである。また、広告において本物件について庭付一戸建風と表示してあるが、これは勧誘文言に過ぎず庭の使用について特に定めはないため、いずれも賃料を減じる理由にはならない。 

参考:賃貸借トラブルに係る相談対応研究会 「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」

エアコン・電話配線のトラブルと庭が使えないことで、入居者が家賃を払わなかったため、大家から建物明渡と未払賃料支払請求を起こされたが、入居者は賃料減額を主張したケースです。エアコン・電話配線のトラブルは大家負担で修繕すべきとされましたが、どれも賃料を減額する必要はないと判断されました。

判例2:他室からの騒音

状況他室からの騒音
事案賃借人が、騒音被害が改善されないことを理由に賃料・共益費の半額を支払わなかったことに関し、賃貸人が債務不履行による賃貸借契約解除の意思表示をしたが、賃借人が無効であると主張
裁判所の判断他室の居住者の騒音被害による生活妨害等に賃貸人が対応しないことは、 通常目的物の一部滅失と同視されないため、民法第611条が類推適用されるとはいい難い。類推適用が許される場合があったとしても、 相当期間にわたって一定時間客観的に受忍限度(※)を超えた騒音が続く状態であるなど、物理的にも一部使用不能な状態を明確にしなければならない。

参考:賃貸借トラブルに係る相談対応研究会 「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」
受忍限度:社会生活を営む上で、我慢するべき限度のこと

入居者が騒音被害を受けており、改善されないことで賃料の半額を意図的に支払わなかったが、それによって大家が賃貸契約解除の意思表示をしたものの、入居者がそれは無効であると主張したケースです。民法第611条に当てはまらないと判断され、賃料を減額する必要はないと判断されました。

判例3:照明器具・換気扇の故障 

状況照明器具・換気扇の故障 
事案賃貸人が未払賃料の支払いを求めた本訴に対し、賃借人が民法第611条の類推適用による賃料の減額等を求めた
裁判所の判断賃貸人に修繕義務の履行遅滞があったが、その原因は故障した部品の交換に時間がかかったことが原因であり、賃借人において、当該部品の交換まで本件滞納賃料の支払いを拒絶し得るものであったとまで認めることはできず、もとより賃料の減額を請求し得る場合でもない。 

参考:賃貸借トラブルに係る相談対応研究会 「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」

照明器具と換気扇が故障したが、修繕に時間がかかったため入居者が家賃を未払いし、大家が家賃の支払いを求めたところ、入居者が賃料減額を求めたケースです。故障の内容から、賃料を減額する必要はないと判断されました。


5. 賃料減額の対象になるのか判断がつかない場合の対処法

ここまで解説したように、賃料減額の対象となるか、すべての状況を的確に判断することは困難です。

そのため、ここまでの解説でも判断できなかった場合には、国土交通省の「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」に記載された「賃料減額等の対応を決定する際の考慮事由」を参考に判断しましょう。

賃料減額等の対応を決定する際の考慮事由

考慮する事項
考え方
使用不能な期間
  • 物件の一部が使用不能になっても、ただちに通常の居住ができないと判断されるわけではない
  • 賃料減額は、一部使用不能の程度が社会通念上の受忍限度を超えて、通常の居住ができなくなったときから修繕が完了するまでの期間が対象となる
使用不能の程度一部使用不能の程度が使用に不便があるという程度を超えていること
使用不能な面積
  • 使用できない部分の面積が明らかな場合は、修繕が完了するまでの期間の日割家賃を面積按分した額を減額する(雨漏りならそれによって使用できない範囲のみで計算する)
  • 判例においても、面積按分の考え方を取り入れているものがある
代替手段や代替品の提供
  • 減額割合の算定などにかかる貸主・借主双方の負担が大きくなる場合などは、代替手段の提供といった柔軟な対応も必要である
  • 代替手段の提供などによって、一部使用不能により不便は生じているものの、家賃の減額までは必要ないとされる場合もある

参照:国土交通省「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」

上記の考慮事由にプラスして、似たような判例がないかを探し、どの程度減額すべきかを判断しましょう。


6. 賃料減額に応じる場合の3STEP

入居者から「設備に不具合があるから賃料を減額してほしい」との申し出があった場合、以下の流れで対応しましょう。

では、これらの手順について詳しく解説していきます。

6-1. STEP1.現場を確認する

まず、対象となる物件におもむき、現場を確認しましょう。現場を見なければ、入居者に過失がないかを判断できず、賃料を減額すべき不具合・故障なのかもわからないからです。

また、不具合や故障があるのであれば、修繕の手配もおこなわなくてはなりません。

不具合や故障の状況を確認し、入居者から「なぜそのような状態になったのか」原因の聞き取りをおこないましょう。ここで、入居者に過失がある場合は家賃減額の対象にはなりません。

もし設備自体に問題があるのであれば、代替案を提案すると和解できることも多いです。
例えば、エアコンが作動しない場合に、修理が完了するまで窓エアコンを設置するなどです。

代替手段を提供できれば、賃料を減額しなくても良くなるケースがほとんどです。大家さんが代替手段を提供することで、入居者も納得してくれる可能性が高くなるからです。

実際に、「2.賃料減額を請求されて実際に減額となったのは12.4%」で紹介した、国土交通省の「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」で賃料減額の対象にならなかった84.7%の中には、代替手段を提供したものも含まれています。

状況が確認できたら、必要に応じて修繕の手配をしましょう。

【不具合・故障箇所は写真を撮っておく】

不具合や故障がある箇所は写真撮影をしておきましょう。そうすることで、修繕の前後の比較ができるだけでなく、故障の状態を証拠として残せるからです。

写真を撮る際には、以下のポイントを押さえて撮影しましょう。

  • 修繕が必要な箇所の状態、位置、大きさが分かるように撮影
  • 修繕が必要な設備の全体写真の撮影
  • 複数の角度からの撮影
  • 日付、時間、場所の記録

6-2. STEP2.賃料減額ガイドラインを確認する

現場の状況確認が終わったら、賃料減額ガイドラインを参考に、どのくらい減額すべきかを判断しましょう

ただし前述したように、賃料減額ガイドラインではいくら減額すべきかを判断できないケースもあるでしょう。

そのような場合は、「5.賃料減額の対象になるのか判断がつかない場合の対処法」で解説したように、「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」を参考にしたり、家賃減額が認められた判例などを探したりして、どのくらいの減額が妥当なのかを判断する必要があります。

6-3. STEP3.修繕の日程や賃料減額について入居者に伝える

修繕の日程が決定したら、速やかに入居者へ連絡を入れましょう。

その際には、以下のことを入居者に伝えましょう。

  • 修繕はいつおこなわれるか
  • 賃料をいくら減額するか
  • なぜその金額が減額になるのか

減額の根拠もしっかりと説明することで、入居者に納得してもらいやすくなるでしょう。


7. 賃料減額に賃借人が納得せず、賃料の支払いがなかった場合の対応

賃料を減額したものの、入居者が納得せず家賃を支払ってくれない、もしくは入居者が勝手に決めた金額のみを支払ってくるといったトラブルが起きるケースもあります。

賃料減額ガイドラインなどを用いて減額の根拠などを説明し、支払われなかった家賃を支払うように求めても応じてくれない場合は、調停や訴訟を起こすといった法的手段を検討しましょう。

万が一、入居者が家賃を払ってくれないといったことがあれば、オーナーにとって大きな損失となってしまうため、どのような手順で対応すべきかを知っておきましょう。

7-1. 支払督促をする

まず、家賃が未納となった場合、書面で支払いの督促をおこないましょう。入居者から応答がない場合は、2~3回ほど督促を繰り返します。

督促状には、以下の内容を必ず記載しましょう。

  • 請求額
  • 支払期限
  • 振込先
  • 期限までに支払われなかった場合は法的措置をとる旨

督促をおこなっても支払いがない場合、内容証明郵便での最後の督促をおこないます。この督促で支払わなければ法的措置をとることを記載し、支払いを促します。

また、内容証明郵便で送ることで、後に訴訟へと発展した場合に、裁判所に督促をしっかりとおこなったことを示すための証明にもなります。

内容証明郵便は、こちらが本気であることを伝えるためにも、弁護士に依頼して弁護士の名前で送ってもらうのがおすすめです。

自分で内容証明郵便を発送する場合は、日本郵便株式会社の「内容証明」を参考にしてください。

督促にかかる期間は、支払い期限まで待つ必要があるため2か月ほどです。

7-2. 支払い督促に応じない場合は保証人に連絡する

支払い督促をおこなったものの応じてくれない場合、賃貸契約時に保証人をつけていれば保証人に請求することも可能です。

保証人への請求のタイミングについては明確に決められていませんが、2か月ほど滞納された時点で保証人に請求をするケースが多いようです。

ただし、保証人には以下2つの権利によって支払いを断ることが可能なケースもあります。

  1. 催告の抗弁権:家賃滞納が発覚した場合、まず賃借人である債務者本人に請求するよう要求できる権利
  2. 検索の抗弁権:家賃滞納が発覚した場合、まずは主債務者本人の財産から返済を求めるように要求できる権利です。

そのため、保証人に連絡が取れても、断られる可能性があることを考慮しておきましょう。

【保証人と連帯保証人の違い】

保証人と連帯保証人は混同されがちですが、両者は責任の重さが違います。

保証人は「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」が認められていますが、この2つの権利がないのが連帯保証人です。

つまり、賃貸契約時に保証人ではなく連帯保証人をつけていた場合は、滞納があった時点で連帯保証人に対して賃料を請求できます。そのため、まずはどちらをつけているか確認することが大切です。

7-3. 簡易裁判所に調停を申し立てる

督促に応じてもらえず保証人からも支払いを断られた場合、すぐに訴訟を起こすこともできますが、まずは調停で話し合うという手もあります

調停とは、調停委員を間に挟んで民事におけるトラブルを裁判所で話し合い、解決することです。

入居者が話し合いに応じてくれる場合は、物件の所在地を管轄する簡易裁判所に対して調停を申し立てて、話し合いをおこないましょう。

調停は、以下のように進みます。

  1. 申立人(物件オーナー)が入室し滞納に関して説明して退出する
  2. 相手方(入居者)が入室し、言い分を説明し退出する
  3. 申立人と相手方が同時に呼ばれ、調停主任裁判官と民事調停委員の前でお互いの言い分を確認する

話し合いで合意すれば調停が成立となり、簡易裁判所から合意した内容が記載された「調停調書」という書類が送られてきます。調停調書は債務名義(強制執行に必要な公文書)になります。

調停の期日は2~3回程度であることが多く、期間は2~3か月ほどかかります

【調停は訴訟よりも費用がかからない】

調停をおこなうメリットとして、穏便に話し合いで解決できるほか、訴訟に比べて費用が安いことが挙げられます。

申し立てにかかる手数料は、10万円までが500円で、それ以上は20万円なら1,000円といったように10万円きざみで500円ずつ上がっていきます。

ただし、調停が不成立になり訴訟に発展した場合、調停をおこなった分、解決まで余計に時間がかかってしまうため、入居者が話しをちゃんと聞いてくれる人かどうかなど、調停成立の可能性を検討して決める必要があるでしょう。

7-4. 訴訟を提起する

内容証明による督促に応じてくれない場合や、調停が不成立となった場合は、物件の所在地を管轄する簡易裁判所に対して訴訟を起こしましょう。

滞納した家賃が60万円以下の場合は「少額訴訟」による審理と判決を求めます。

具体的な手順は、以図のとおりです。

オーナーが訴状を裁判所に提出し、それを裁判所が被告(入居者)に送付します。相手が訴状を受け取ると、訴訟開始になります。

少額訴訟は、特別な事情がある場合を除いて、第1回口頭弁論期日で審理を完了しなければならないという特徴があります。そのため、裁判所の呼び出しに一度出向けば、その日のうちに判決がもらえます

ただし、少額訴訟に対して被告(入居者)は、訴訟を通常の手続に移行させることを要求できます。その場合は少額訴訟でなく通常の訴訟に移行します。

通常訴訟の場合は期日が複数回もうけられるケースが多く、解決まで長期化する可能性があります。

【少額訴訟にかかる費用】

少額訴訟では、訴訟の目的となる金額に応じて手数料が発生します。手数料は10万円までは1,000円、それ以上は20万円なら2,000円といったように10万円きざみで1,000円ずつ上がっていきます。手数料は、収入印紙での納付です。

また、訴状などを送付するための切手代も裁判所に提出します。金額は裁判所によって変動しますが、数千円程度かかります。

弁護士に依頼する場合は、弁護士費用も必要です。着手金は訴額の5~10%程度、報酬金は回収金額の10~20%程度が相場です。ただし、少額訴訟の場合は弁護士に依頼しないケースも多くあります


8. 賃料減額を未然に防ぐために今からできる2つのこと

賃料減額を求められた場合、賃料の値引き金額で入居者とトラブルになるケースもあります。そのようなことが起こらないように、トラブルに対して備えておくことが大切です。

賃料減額に関して備えられることは、以下の2つです。

  • 設備の寿命を管理する
  • 保証がしっかりしている管理会社に委託する

では、詳しく解説します。

8-1. 設備の寿命を管理する

まず、設備の寿命を管理しておくことが大切です。寿命を迎えた古い設備を交換するなどしておけば、設備の故障によって賃料減額を求められるような状況を防げます。

たとえば、以下のような設備は寿命が「10年」とされているケースがほとんどです。

  • エアコン
  • 給湯器
  • テレビアンテナ

これらは、安全上支障なく使用できる「標準使用期間」も10年と設定されています。

また、上記のような設備の部品は、製造年月日から10年ほどで保有期間が終了します。そのため10年を過ぎてから故障した際に修理を手配しても、部品がなくて直せない可能性があるのです。そこから新しい製品に交換しようとしても、時期によってはすぐに手に入らないこともあります。

そのため、設備の寿命を管理し、適切に点検や交換をおこなうことが大切です。

【設備の寿命を調べる方法】

設備によって標準使用期間は異なります。そのため、正確な寿命を把握するためには、各設備の標準使用期間を調べましょう。

WEBで以下のように検索し確認が可能です。。

○○(調べたい設備名) 標準使用期間

8-2. 保証がしっかりしている管理会社に委託する

今回を機に、保証がしっかりしており、設備の故障や入居者とのトラブルに備えられる管理会社に管理そのものを委託するのも一つの手です。

管理を任せることで、貸室や設備の故障に対する対応や、修繕の手配をスピーディにおこなうことができ、資産価値を守ることにも繋がります

また、
・滞納保証
・原状回復保証
・明渡訴訟費用保証
などの保証もあることで、減額されないことに納得しない賃借人が賃料支払いを拒否した場合でも安心です。

【充実した保証で選ぶならルーム・スタイル】

私たちルーム・スタイルでは、入居者の募集から設備の故障対応まで、幅広く管理を請け負う「総合管理プラン」を提供しています。

 

このプランでは、万が一に幅広く備えられる「6つの安心保証」が標準完備されています

これらの保証があることで設備トラブルだけでなく、滞納や死亡事故にも備えられ、トラブルが訴訟に発展した場合の費用も保証されます。

賃貸経営をしていると、いつどのようなトラブルが発生するかわかりません。だからこそ、予期せぬリスクからオーナー様を守るために、弊社がサポートいたします。

設備の故障に関するトラブルや滞納など、賃貸経営特有のリスクに関する保証をご検討中の方は、ぜひ一度ルーム・スタイルにご相談ください。


9. まとめ

この記事では、賃料減額ガイドラインについて解説してきました。最後にまとめをご覧ください。

【賃料減額ガイドラインとは】

賃料減額の対応を適切におこなえるように、日本賃貸住宅管理協会が作成した基準

【賃料減額になるケースとならないケース】

賃料減額になるケース
  • 貸室や設備の故障によって入居者が生活に支障をきたすような場合
  • 天災によって上記のような状態になった場合
賃料減額にならないケース
  • 入居者の過失(善管注意義務違反)
  • 生活に支障をきたさない程度の不具合や故障
  • 電気・ガス・水道などの供給元が原因で使用不能となっている場合

【賃料減額に応じる場合の流れ】

 

賃料減額を求められるような状況をなくすためにも、設備などの寿命を管理しておきましょう。

また、しっかりとした保証がある管理会社に管理を任せれば、不具合や故障が発生した際も素早く対応してくれます。賃料の滞納や入居者とのトラブルにも備えられますので、検討してみてください。

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まずお気軽にご相談ください
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