高齢化社会が進む中、「高齢者に部屋を貸したいけど、何に気を付ければいいのか分からない」という不動産オーナーも多いのではないでしょうか。老後の金銭的な問題に加えて、健康面や保証人の設定など、特有の悩みも気になるところです。
この記事では、高齢者との賃貸契約を成功させるためのコツや、注意したいポイントを分かりやすくまとめました。高齢者の入居を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
この記事で分かること |
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目次
- 高齢者はなぜ賃貸物件を借りにくいのか
- 理由1.孤独死のリスクがある
- 理由2.老後の支払い能力が低い
- 理由3.安全面・健康面で懸念事項が多い
- 高齢者でも契約しやすい賃貸物件3選
- サービス付き高齢者住宅
- 公営住宅
- UR賃貸住宅
- その他の物件で高齢者がスムーズに賃貸契約するには
- 家賃保証会社を活用する
- 本人以外の二親等内で契約者をたてる
- 親族の家が近いか確認する
- 支払い能力があることを明示してもらう
- 選ばれる高齢者向け賃貸物件の特徴
- バリアフリーに対応している
- 防犯面が充実している
- 医療機関や商業施設へのアクセスが良い
- 食材宅配の届くエリアである
- 周辺に高齢者向けの賃貸物件が少ない
- 高齢者向け賃貸物件を提供するときのポイント
- 高齢者向けサービスの導入例
- 契約書で注意すべき特別条項
- 高齢者向け「終身建物賃貸借契約」のしくみと活用法
- 終身建物賃貸借契約とは
- 普通建物賃貸借契約とのちがい
- 終身建物賃貸借に関する問い合わせ先
- 高齢者市場をうまく利用して空室改善しよう
- 単身高齢者世帯の増加
- 要介護の高齢者も約8割が在宅
- まとめ
高齢者はなぜ賃貸物件を借りにくいのか
65歳で迎える「退職」という1つの境目で、多くの人が老後の住まいについて考え始めます。しかし、60歳を超える頃から賃貸物件を借りるハードルが徐々に高くなる現実があります。
(出典:国土交通省「齢者住宅施策の現状と動向」)
不動産オーナーにとって高齢者の入居にはさまざまなリスクが伴い、その結果、契約を渋られるケースが増えているのです。以下では、その主な理由を詳しく見ていきます。
理由1.孤独死のリスクがある
高齢者が一人暮らしをする際、最も大きな問題として挙げられるのが孤独死のリスクです。特に、家族との交流が少ない高齢者の場合、誰にも気づかれないまま亡くなるケースが増えており、不動産オーナーにとって大きな負担となります。孤独死が発生すると、部屋の特殊清掃や修繕が必要となり、通常よりも原状回復にかかる費用が増加します。
また、物件の資産価値が下がる可能性もあるため、高齢者の入居に消極的なオーナーも少なくありません。孤独死が発生してから発見が遅れ、死亡から3日以上経過すると「事故物件」とみなされることが一般的です。
事故物件となった場合、周辺相場と比較して家賃が20~30%ほど下がることが多く、不動産オーナーにとっては大きな経済的損失となります。
理由2.老後の支払い能力が低い
定年退職後、多くの高齢者は収入が年金だけになり、生活費が足りず毎月赤字になることがよくあります。いわゆる「老後2000万円問題」で言われたように、退職後の生活には年金以外にまとまった貯金が必要ですが、それが十分にない人も多いのが現状です。
(出典:第21回市場ワーキング・グループ 厚生労働省資料)
さらに、医療費や介護費、親族のライフイベントにかかるお祝い費など、急な出費が家計を苦しくすることもあり、家賃を払えなくなるリスクが高まります。こうした収入の不安定さが、不動産オーナーにとって高齢者の入居をためらう理由になっています。
理由3.安全面・健康面で懸念事項が多い
高齢者は年を重ねることで体力や動きが落ち、部屋の中での転倒やけがが起こりやすくなります。特に、段差が多い家やエレベーターのない建物では危険が高まります。
また、健康状態が悪化したり、急に具合が悪くなることも多く、物件の管理者にとって対応負担が増える原因です。
さらに、安全面では、料理中の火を消し忘れたり、電気製品をうっかり使い間違えたりすることで火事になるおそれもあります。もし火事が起きた場合、事故物件とされることがあり、物件の価値が大きく下がるだけでなく、修理費や近隣への影響など、オーナーにとって大きな負担になります。こうした理由から、高齢者の入居に慎重になるオーナーが多いのが現状です。
高齢者でも契約しやすい賃貸物件3選
高齢者が賃貸契約を結ぶ際には、保証人や収入の不安、健康面でのリスクなど、多くのハードルがあります。しかし、こうした問題を軽減し、高齢者でも契約しやすい物件も存在します。
本章では、特におすすめの3つのタイプの賃貸物件を紹介しましょう。
サービス付き高齢者住宅
サービス付き高齢者住宅(サ高住)は、高齢者が安心して暮らせる環境を提供するために設計された物件です。緊急時に対応できるスタッフが常駐しており、生活支援や介護サービスが受けられる点が大きな特徴です。
また、入居時の収入基準が比較的緩やかで、保証人がいなくても契約できる場合が多いことから、高齢者にとって安心の選択肢といえます。
普通の賃貸物件と比べて家賃はやや高めですが、スタッフが常駐しているため安心して生活できる環境が整っています。
緊急時のサポートが得られることは、多くの高齢者や親族にとって大きな魅力です。
公営住宅
公営住宅は、所得が限られている人を対象とした国や地方自治体が運営する住宅です。家賃が収入に応じて設定されるため、年金生活の高齢者でも負担が軽く、契約しやすいのが特徴です。
多くの自治体で高齢者向けの優先枠を設けており、抽選に当選すれば比較的スムーズに入居できます。周囲に同世代の入居者が多いことも安心材料の一つです。
UR賃貸住宅
UR賃貸住宅は、保証人不要や礼金なしといった契約のハードルが低いことで知られる物件です。収入面での制約も緩やかで、退職後の高齢者でも申し込みが可能な場合が多いです。また、エレベーター付きやバリアフリー設計の物件も豊富に揃っており、高齢者が安心して暮らせる環境が整っています。地域によっては、高齢者専用のサポートプランがある点も魅力です。
その他の物件で高齢者がスムーズに賃貸契約するには
高齢者の入居を検討しているオーナーにとって、契約を進める際に特有の不安や課題があるかもしれません。しかし、適切な対応策を講じることで、高齢者の入居は安定した賃貸経営につながる可能性があります。
本章では、高齢者がスムーズに賃貸契約を結ぶために、オーナー側で工夫できるポイントを4つ紹介します。
家賃保証会社を活用する
高齢者が賃貸契約を希望する場合、家賃保証会社を活用することで、オーナーの不安を軽減できます。家賃保証会社を利用すると、万が一家賃の支払いが滞った際にも、家賃保証会社が代わりに対応するため、オーナーにとってのリスクが大幅に減ります。
高齢者に保証人がいない場合でも、保証料を支払うことで契約を進められる点が大きなメリットです。家賃滞納が続いた場合でも、裁判手続きや強制退去まで保証会社が対応してくれる内容のプランを選んでおくと、より安心です。
本人以外の二親等内で契約者をたてる
契約者を本人ではなく、二親等内の家族(子どもや兄弟など)にする方法も効果的です。これにより、高齢者自身の収入や健康リスクが契約上の障害になりにくくなります。契約者が比較的若い家族であれば、オーナーとしても安心できます。
なお、契約者は三親等内の叔父や叔母などでも問題ありませんが、何かトラブルが発生した場合には、関係性がより近い家族のほうが親身に対応してくれることが期待できます。そのため、契約者を二親等内に設定することがよりおすすめです。
親族の家が近いか確認する
高齢者が賃貸契約を希望する場合、その親族が近くに住んでいるかどうかは、オーナーにとって重要なポイントです。親族が近くに住んでいれば、緊急時に迅速な対応が期待でき、オーナーが抱える負担や不安を軽減することができます。
また、親族が定期的に訪問している場合は、高齢者の生活状況を把握しやすくなるため、オーナーとしても安心して契約を結べるでしょう。
支払い能力があることを明示してもらう
家賃をきちんと払えることを示してもらうのは重要です。たとえば、年金の受給額や貯金の残高、退職金の使い方などを確認することで、安定した収入があるかを判断できます。また、家族や他の支援者がいる場合は、そのサポート状況も伝えてもらうと安心です。
これらの情報を提出してもらうことに対して、躊躇する必要はありません。賃借人保護の観点から、一度入居を許可した後に退去を求めるのは法律上難しいケースが多いため、契約前に金銭事情をしっかり確認しておくことが大切です。
選ばれる高齢者向け賃貸物件の特徴
高齢者にとって安心して暮らせる物件には、いくつかの共通した特徴があります。オーナーがこうした要素を物件に取り入れることで、入居希望者から選ばれる物件になる可能性が高まるでしょう。
以下では、高齢者向け賃貸物件に求められるポイントを紹介します。
バリアフリーに対応している
段差が少なく、手すりが設置されているなど、バリアフリー仕様の物件は高齢者にとって大きな魅力です。特に玄関や浴室、トイレなどの動線が安全で使いやすい設計になっている物件は、日常生活での事故リスクが低く、安心して暮らせる環境を提供します。
防犯面が充実している
防犯カメラやオートロックなど、セキュリティ設備が整っている物件は、高齢者やその家族にとって大きな安心材料となります。特に、高齢者は体力が衰えがちなため、空き巣や詐欺被害を防ぐための防犯対策が重要です。
階段しかない物件では、高齢になるほど1階の住居が好まれるため、1階部分の防犯対策も必要です。具体的には、バルコニーに忍び返しや防犯フィルムを設置するなど、侵入を防ぐアイテムを導入することも視野に入れると良いでしょう。
医療機関や商業施設へのアクセスが良い
病院やクリニックが近くにあり、買い物が便利な場所にある物件は、高齢者にとって生活しやすい条件の一つです。徒歩や公共交通機関で通いやすい立地は、健康管理や日々の生活において重要なポイントとなります。
さらに、高齢者による交通事故が社会問題化していることから、免許を返納する高齢者が増加中です。そのため、車を使わなくても生活が成り立つようなアクセスの良い物件は、これまで以上に高齢者から選ばれる傾向が強まると考えられます。
食材宅配の届くエリアである
最近では、高齢者向けの食材宅配サービスを利用する方が増えています。そのため、宅配サービスが対応している地域にある物件は、より多くの高齢者に選ばれやすくなります。
近くに頼れる親族がいない場合、この点は大きなアピールポイントとなるでしょう。
周辺に高齢者向けの賃貸物件が少ない
同じエリアに高齢者向けの賃貸物件が少ない場合、その物件の価値が相対的に高くなります。競合が少ないため、空室リスクを下げやすいのがメリットです。
高齢者が住みやすい条件を整えることで、より選ばれやすい物件となるでしょう。
高齢者向け賃貸物件を提供するときのポイント
高齢者向けの賃貸物件を提供するときは、ただ「貸す」だけでなく、高齢者ならではのニーズや心配ごとに対応した工夫が必要です。たとえば、段差をなくしたり、防犯対策をしたりといった物件のつくりだけでなく、安心して住み続けてもらうためのサービスや契約内容の工夫も大切です。
ここでは、高齢者向け物件を提供する際に知っておきたいポイントを分かりやすくご紹介します。
高齢者向けサービスの導入例
高齢者向け物件では、見守りサービスや安否確認を導入することで、物件の魅力を高められます。見守りサービスは、センサーやカメラを活用して入居者の日常を確認し、異常があれば家族や管理者に通知する仕組みで、大手のセコムやALSOKも提供しています。緊急時に通報できるボタンや、一定時間動きがないと通知が届くシステムも安心感を高めるポイントです。
また、地域の介護施設や医療機関と連携することで、入居者が必要なサポートを受けられる環境を整えられます。
契約書で注意すべき特別条項
高齢者との賃貸契約では、通常の契約内容に加えて、緊急連絡先や認知症を発症した場合の対応に関する条項を設けることが重要です。緊急連絡先を設定することで、万が一の際に迅速な対応が可能となり、オーナー側のリスクを軽減できます。
また、認知症に備えた取り決めを事前に作成しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。たとえば、認知症を発症して判断能力が低下した場合には、以下のような対応を取り決めておくことが考えられます。
代理人の指定 | 認知症を発症した際に契約や家賃支払いなどを代行する親族や後見人を事前に指定しておく。 |
連絡体制の明記 | 物件の管理上の問題が発生した場合に連絡を取るべき人を明確にする。 |
契約の継続条件 | 認知症が進行し、居住が難しい状況になった場合には、親族と協議のうえで契約の変更や終了を促す条項を設ける。 |
実際に契約を終了して退去してもらうのは簡単ではありませんが、これらを契約書に明記しておくことで、オーナーのリスクを軽減し、入居者やその家族との信頼関係を築くことができます。
高齢者向け「終身建物賃貸借契約」のしくみと活用法
高齢化社会において、高齢者が安心して暮らせる住まいを確保するために注目されているのが「終身建物賃貸借契約」です。以下では、そのしくみや普通建物賃貸借契約とのちがい、問い合わせ先を紹介します。
終身建物賃貸借契約とは
「終身建物賃貸借契約」は、高齢者が契約期間中に住み続けられることを保証する特別な賃貸契約です。この契約では、賃借人が亡くなるまで住み続けられるため、退去の不安なく老後を安心して過ごせるという特徴があります。
契約には公正証書による書面が必要であり、口頭での契約は認められていません。賃借人が老人ホームに入所するなどして住む必要がなくなった場合、賃借人から解約の申し入れを行うことも可能です。
普通建物賃貸借契約とのちがい
「終身建物賃貸借契約」と「普通建物賃貸借契約」には以下のような違いがあります。
(出典:国土交通省資料「大家さんのための終身建物賃貸借契約の手引き」)
- 契約の期間
- 終身建物賃貸借契約は賃借人が亡くなるまで契約が続きます。
- 普通建物賃貸借契約は通常1年以上の期間を定めて契約し、期間満了後に更新が可能です。
- 契約の更新
- 終身建物賃貸借契約には更新がなく、賃借人が亡くなるまで継続します。
- 普通建物賃貸借契約では正当な理由がない限り更新されます。
- 賃料の増減請求
- 両者とも賃料の増額や減額の請求は可能ですが、特約がある場合はその内容に従います。
- 契約終了の条件
- 終身建物賃貸借契約では、賃借人が住む必要がなくなった場合や一定期間の解約申し入れが行われた場合に6ヶ月以前の解約申し入れが必要です。
- 普通建物賃貸借契約では、期間の定めや正当な理由に基づいて、期間の定めがない場合はいつでも申入れが可能です。
- 相続の有無
- 終身建物賃貸借契約では賃借人が亡くなると契約は終了し、同居の家族も1か月以内に退去が必要です。
- 普通建物賃貸借契約では、条件によって家族が契約を引き継げる場合があります。
これらの特徴を理解し、適切に活用することで、双方にメリットのある契約を結ぶことができるでしょう。
終身建物賃貸借に関する問い合わせ先
終身建物賃貸借契約について詳しく知りたい場合や、認可を受けようとする建築物に関する問い合わせは、物件の所在地によって窓口が異なります。
政令指定都市または中核市にある場合
各都市の担当部署に直接お問い合わせください。それ以外の市町村にある場合
都道府県の担当窓口が対応しますので、都道府県庁にお問い合わせください。
具体的な窓口については、各自治体の公式サイトや広報資料などを確認するとスムーズです。
高齢者市場をうまく利用して空室改善しよう
高齢化が進む現代において、高齢者市場を取り込むことは、不動産オーナーにとって空室を減らす大きなチャンスです。特有のニーズや生活スタイルを理解し、それに応じた物件やサービスを提供することで、安定した収益を得ることができます。
ここでは、高齢者向け不動産市場の実態や、介護が必要な高齢者への対応について解説します。
単身高齢者世帯の増加
単身高齢者世帯は、年々増加傾向にあります。
2005年から2035年までの30年間で、単身高齢者世帯は約160万世帯増えると予測されており、2035年には762万世帯に達する見込みです。
この増加は、配偶者の死別や離婚、子どもとの別居といった要因によるもので、高齢化社会の特徴的な現象となっています。
このような背景から、単身高齢者をターゲットとした賃貸物件の需要が高まっています。不動産オーナーにとっては、この単身高齢者市場を取り込むことで、空室率の改善や安定した収益につなげるチャンスでしょう。
要介護の高齢者も約8割が在宅
(出典:高齢者住宅施策の現状と動向)
要介護や要支援の認定を受けている高齢者のうち、約8割は施設ではなく、自宅で生活しています。具体的には、418万人のうち327万人が自宅で暮らし、施設に入っているのは91万人ほどです。
多くの高齢者が、住み慣れた環境で生活を続けたいと考えています。また、家族とのつながりを大事にしたいという気持ちや介護施設利用への金銭的負担も影響しています。
こうしたニーズに対応し、介護サービスやヘルパーの訪問を受けながらの生活をしやすくすることで空室改善、そして収益安定を期待できるでしょう。
まとめ
この記事では、高齢者向けの賃貸物件について、押さえておきたいポイントや注意点を解説しました。高齢者の入居には、孤独死や家賃の支払い、安全面の心配がありますが、段差をなくしたり、見守りサービスを取り入れたり、病院に通いやすい場所にするなど、安心して暮らせる環境を整えることで対応できます。また、サービス付き高齢者住宅やUR賃貸住宅など、高齢者が契約しやすい物件の特徴を参考にするのもおすすめです。
さらに、要介護の高齢者が自宅で暮らしていることを考え、ヘルパーが訪問しやすい物件や、介護サービスを利用しやすい環境を整えることが大切です。高齢者のニーズをしっかり理解して、空室を減らし、収益を安定させる物件づくりを目指してみてはいかがでしょうか。
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